近年、学校現場でも「多様性」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。これは、生徒一人ひとりが異なる価値観、文化、背景を持つことを認め、尊重するという考え方です。しかし、この多様性を尊重するという理念が、必ずしもスムーズに学校現場に浸透しているわけではありません。多様性を受け入れることを「強要される」という状況も生まれ、生徒と教師がともに疲弊していくという状況もあるようです。本記事では、公立中学校教師のAさんの事例とともに、令和の学級崩壊について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
手取り月45万円、59歳・経験豊富な「公立中学校教師」が虚無感を覚えた「静かな学級崩壊」【社会保険労務士が解説】
「学級崩壊」とは?
学級崩壊とは、「正常な学習活動ができなくなった学級」をさし、一定期間(1ヵ月)以上、集団として授業規律を失い、正常な学習活動ができない状況にあることをいいます。
一昔前では、テレビドラマ等で放映されていたように教員に対して暴言を吐く、暴力を振るうといった問題行動を起こすような「激しい崩壊」が、クラスや学校単位などで起こっていることを学級崩壊というケースが多かったかもしれません。
令和の学級崩壊
59歳のAさんは、地域の子が通学している公立の中学校で普通学級の担任をしています。Aさんが新任で教員を始めたころは、まさに前段の激しい崩壊が現実にあったころでした。年齢を重ねるにつれ、教師歴と経験でAさんなりに乗り切ってきました。
ですが、時が経つにつれて、「激しい崩壊」は「静かな崩壊」に変化しているようです。経験豊富であるAさんも、新たな経験には心が折れそうになりました。ベテラン教師でも、新たな事案は、新任の教師と同様です。
たとえば、昔の生徒の反抗が暴力や破壊(物を壊す)であるとしたら、最近は授業中に先生を無視するような振る舞いや突然教室を出ていくなど、多様に変化しています。
多様性を尊重した学級経営
変化の1つとして、特別な支援を必要とする子の増加に伴う学級運営があげられます。2007(平成19)年4月から、「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ、すべての学校において、障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくことになりました。2022年の文部科学省による「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」から、学習面または行動面で著しい困難を示す子どもが中学校で5.6%となっています。
Aさんのクラスでも、授業の途中に突然教室を出ていく子やコミュニケーションが上手くとれない子など、支援が必要になる子がいます。その子の意思を尊重した場合、別の子が教室を出て行きます。教室を出ていく子に注意をすると「なぜ自分だけが注意されるのか?」と不公平であることを指摘されます。
さらに、子どもたちが家に帰り、保護者に学校での出来事を話したとしましょう。保護者との連携がとれず、SNSで拡散されたり、保護者が加担する側になったり、問題がさらに大きくなる可能性があります。
上記の場合、Aさんは職員会議に諮り、学校全体で問題を共有し保護者会等で早急に対応するようにしました。ベテラン教師であるからこそ、早めの対応をとることができたのです。Aさんは、集団での教育活動である学校で、多様な子ども達と保護者との関わりに心が折れることもしばしば。最近では、もはや虚無感を覚えるそうです。