物価高騰が続く中、大学生の一人暮らしを支える親世代の経済的負担が増大しています。今回の事例では、年金受給を目前に控えた63歳の会社員が、仕送り増額を求める20歳の息子からのSOSに直面。家計の現状と教育費の実態などを交えながら、この複雑な状況への対処法について、FPの三原由紀氏が解説します。
仕送りが足りなくてヤバいです…。大学に通う一人息子からの“切実なLINE”に年収360万円・年金受給目前の父、苦悩「いったいどうしたらいいのか」 【FPの助言】
仕送りの実態と学生の生活費…多くの学生が「仕送りでは足りない」
日本政策金融公庫の2021年度調査(※1)によると、自宅外通学者への年間平均仕送り額は95.8万円(月額約7.9万円)でした。全国大学生活協同組合連合会の2023年調査(※2)では、一人暮らしの大学生への平均仕送り額は約7万円となっています。
一方、大学生の生活費は、一人暮らしの場合、月平均で12万7,500円です(全国大学生活協同組合連合会の2023年調査)。家賃や食費が大きな割合を占め、特に田中さんのケースでは都市部での生活費高騰も大きく影響しています。このギャップを埋めるため、多くの学生がアルバイトや奨学金に頼らざるを得ない状況です。
しかし、経済的困窮は学生を危険な選択肢に駆り立てる可能性があります。「預金口座を作ってくれたら5万円で買う」といった、明らかに違法な誘いに、追い詰められた学生が応じてしまうリスクが存在します。
大学の学生課からも注意喚起があり、母親の喜子さんは、無知な息子が犯罪に巻き込まれることを深く懸念しています。
専門家が提案する具体的な支援…家族間の理解と協力が不可欠
今回の田中さんのように、「想像より大学資金が高くて家計が厳しくなった」「その他の出費と重なり、計画が狂ってしまった」といったことで悩むケースは決して珍しいことではありません。このような状況に直面する家庭にとって、以下の対策が考えられます。
1. 奨学金の戦略的活用
日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)や給付型奨学金を積極的に検討しましょう。2024年度からは、私立の理工農系学生への最大約23万円の授業料減免制度が導入されています。
田中さんは、これまで「奨学金を借りない」という選択をしてきていますが、家計の状況を冷静に判断し、必要に応じて利用も検討するべきでしょう。ただし、給付型のハードルは高いため、多くの場合は貸与型の奨学金を利用することになります。
返済を考えると子ども自身が就職後にその負担を抱えることを納得したうえで借りなければなりません。大学院に進学してそこでも奨学金を借りるとなれば、さらに返済額は大きくなります。大学卒業後の進路も含めて親子でしっかり話し合うことが大切です。
2. 包括的な学生支援制度の利用
各大学や自治体には、食料支援(フードバンク)、家賃補助、アルバイト斡旋など、様々な学生支援プログラムがあります。大学の学生課や自治体の窓口で具体的な支援メニューを確認し、必要に応じて利用を検討しましょう。
3. 家計の徹底的な見直し
可能なら親子で家計簿を共有し、固定費の削減や不要支出の洗い出しを行いましょう。携帯電話プランの見直しやサブスクリプションの整理など、具体的な節約方法を一緒に考えることも大切です。
この状況を乗り越えるカギは、率直で開かれたコミュニケーションです。利用可能な支援制度を徹底的に調査し、親子が協力して解決策を見出すことが重要です。一時的な経済的困難は、家族の絆を深める機会にもなり得るのです。
田中さんにおいては、自分自身は定年後の再雇用で収入が下がっているにも関わらず、子どもの教育資金はまだしばらくかかる予定です。結婚・出産年齢の高齢化によってこうしたケースは増えていますが、田中さんや妻が65歳以降も働き続けて、年金以外の収入を得ることも家計改善には必要といえるでしょう。
最後にまとめますと、こうした経済的課題を乗り越えるためには、公的支援の活用、家計の戦略的な見直し、そして何より家族間の理解と協力が不可欠です。お互いの状況を尊重し、共に困難を乗り越えていく姿勢が、この難局を乗り切る最大の力となるでしょう。
三原 由紀
プレ定年専門FP®