以前は、通夜と告別式を行う「一般葬」が主流でしたが、コロナ禍以降、選択する人が増えている「家族葬」。家族葬の明確な定義はありませんが、家族や親類、親しい友人などの少人数で執り行う葬儀であると認知されています。一般葬と比べて費用を抑えられる点も需要増の要因かもしれません。ところが、あとから訃報を知った人から「なぜ、知らせてくれなかったのか」と責められてしまうケースも少なからずあるといいます。現代の葬儀のあり方について、ファイナンシャルプランナーの山﨑裕佳子氏が事例をもとに解説します。
普通の葬儀にしておけばよかった…「年金月8万円」「貯金ゼロ」の享年78歳母を家族葬で弔った、シングルマザーの52歳娘。葬儀後に知った「まさかの真実」に涙したワケ【CFPの助言】
親の意向を踏まえ、葬儀は簡素にしたつもりだったが……
家族葬にかかった費用の60万円は、ケイコさんが定期預金を取り崩して負担しました。
同じく「第6回 お葬式に関する全国調査」のデータによると、葬儀費用の平均額は118.5万円ということですので、出費はかなり抑えられたといえるでしょう。しかし、今のケイコさんにとっては痛い出費であったことは間違いありません。一方で、母の最期を近親者のみで温かく見送ることができたことには安堵もしていました。
ところが、葬儀から半年が経った頃、母の友人経由で訃報を聞きつけた叔母から、突然、連絡が入ります。怒り心頭の様子です。
叔母:「姉さんが亡くなったって? なんで妹の私に知らせてくれないの?」
ケイコさん:「すみません。連絡先がわからなかったもので……」
叔母:「そんな言い訳ある? いくら折り合いが悪かったとはいえ、実の姉妹なのよ。最後くらい知らせるのが道理じゃないの?」
ケイコさんは連絡先を調べる努力を怠ったことを反省し、叔母に謝罪したそうですが、すぐには納得してもらえなかったといいます。
実際、人が亡くなると葬儀以外にもさまざまな手続きがあり、初めて経験することばかりであることから、すべてのことを完璧に行うのは難しいといえます。ケイコさんとしては、そのあたりの事情も汲んでほしいとも思いましたが、相手に通じる様子はありませんでした。
ケイコさんの後悔
ケイコさんの一つ目の後悔は、いくら疎遠になっていたとはいえ、叔母に連絡する方法を探すべきだったこと。そして、二つ目の後悔は、母が生前「葬儀保険」に加入していたことを知らなかったことです。それは、母の亡き後、実家の整理をしていた時に判明しました。母は自分の葬儀費用として100万円が支払われる保険に加入していたのです。葬儀費用は直接葬儀会社に支払われるという特約付きだったため、知っていればケイコさんの定期預金を取り崩す必要はありませんでした。
同時にエンディングノートも発見。そこには、自分が亡くなったあとに知らせてほしい人がリスト化されており、叔母の連絡先と、ケイコさんの知らない母の友人数名が記されていました。
「お母さん、葬式は簡単でいい、って言ってたのに、ちゃんとお金を準備してたんだね……。本当は家族葬じゃなくて、もっとたくさんの人に見送られたかったのかな……。悪いことしちゃったな。ごめんね……」と後悔の念に駆られ、涙するケイコさん。
後日、その友人に事後連絡という形で母の死を知らせたところ、やはり、「葬儀に参列したかった」といわれてしまったそうです。
情報を共有しておこう
今回、ケイコさんは母を家族葬で見送りました。それ自体に後悔はありませんが、叔母に連絡しなかったことでしこりが残ってしまいました。母は「エンディングノート」を残していましたが、娘のケイコさんがその事実を知らなかったため、母の意向に完全に沿うことができませんでした。葬儀保険のことも事前に知っていれば、費用の心配をすることなくスムーズに葬儀が行えたでしょう。
納得のできる葬儀とするためには普段から、親の思いや子の考えを共有しておくことがポイントとなりそうです。
葬儀は亡くなった人のためのものであると同時に、残された人たちのための儀式でもあるのです。
【出典】
「第6回 お葬式に関する全国調査」(株式会社鎌倉新書「いい葬儀」)
https://www.e-sogi.com/guide/55135/
山﨑 裕佳子
ファイナンシャル・プランナー