以前は、通夜と告別式を行う「一般葬」が主流でしたが、コロナ禍以降、選択する人が増えている「家族葬」。家族葬の明確な定義はありませんが、家族や親類、親しい友人などの少人数で執り行う葬儀であると認知されています。一般葬と比べて費用を抑えられる点も需要増の要因かもしれません。ところが、あとから訃報を知った人から「なぜ、知らせてくれなかったのか」と責められてしまうケースも少なからずあるといいます。現代の葬儀のあり方について、ファイナンシャルプランナーの山﨑裕佳子氏が事例をもとに解説します。
普通の葬儀にしておけばよかった…「年金月8万円」「貯金ゼロ」の享年78歳母を家族葬で弔った、シングルマザーの52歳娘。葬儀後に知った「まさかの真実」に涙したワケ【CFPの助言】
ケイコさん(仮名:54歳)が家族葬を選択した理由
和田ケイコさん(仮名:54歳)は昨年、母親のトシエさん(享年78歳)を亡くしました。
亡くなった日は、トシエさんの月1回の通院日でした。通院には毎回、ケイコさんが有給を取って付き添っていました。亡くなる前日も電話で翌日の時間について打ち合わせをしたばかりでした。ケイコさんが翌日予定通り実家に行くと、トシエさんが居間で倒れていたそうです。心臓発作という突然のお別れとなってしまいました。
母のトシエさんは、自身が50歳のときに夫と死別して以来一人暮らしをしていました。子どもは娘のケイコさんだけです。
夫が亡くなるまでは、夫婦で地元の商店街で精肉店を営んでいました。「コロッケが美味しい」と評判の人気店です。全盛期は多くのお客さんでにぎわっていたそうですが、近くに大型スーパーが建つと人の流れが変わってしまいました。商店街は徐々に活気が失われ、シャッターを閉めたままの店舗が目立つようになってしまったといいます。
先行きに不安を感じ始めたころ、トシエさんの夫が病に倒れてしまいます。数ヵ月の闘病の末、他界してしまいます。寂れつつある商店街でトシエさん一人で店を切り盛りすることは難しく、店を閉める決心をします。
精肉店を閉店したあと、トシエさんは近所のスーパーの総菜部門で働き始めます。しかし、持病の関節リウマチが悪化してしまったため、やむなく60歳で仕事を辞めることに。それ以後は月8万円の年金をもらいながら、店舗兼自宅で慎ましく暮らしてきました。
負債はありませんが、貯金といえるほどの蓄えもなかったようです。
母の葬儀は、必然的に一人っ子のケイコさんが取り仕切ることになります。
実は、ケイコさん、大学4年生と高校3年生の娘2人を持つ、シングルマザーです。ケイコさんの収入をあてにして浪費を続ける前夫には2年前に三行半を突きつけました。
2人の娘はケイコさんが引き取りました。ケイコさんは、短大卒業以来、正社員として働いており、現在の年収は約500万円です。しかし、住宅ローンがあり、娘たちの教育費などを考えると決して余裕のある生活ではありません。
母の死が突然であったため、ケイコさんは気持ちの整理もつかないまま葬儀の準備をしなければなりませんでした。また、葬儀の費用面も気がかりでした。
葬儀にかかる費用は、葬儀の規模が大きくなるほど高額になるのが一般的です。一般葬が最も高額になりやすく、次いで家族葬、一日葬、直葬と続きます。[図表2]
ケイコさんは生前の母の言葉を思い出しました。
「死んだ人間にお金をかけるのはもったいないよ。私の葬式は簡素でいい。戒名もいらないから……」というものでした。
そこでケイコさんは、参列者は自分と娘2人、ケイコさんが知っている母の友人3人、同じ商店街で懇意にしていた人が4~5人程度と見積もりました。実は、母には10年以上連絡を取っていない妹がいることを知っていましたが、母とは昔からウマが合わず、大人になってからは疎遠になっていたことを知っていたため、連絡先がわからないのをいいことに積極的に連絡を取ることをしなかったそうです。
突然のお別れとなり、葬儀の種類の違いなども知らなかったケイコさんですが、葬儀会社に相談した結果、参列者の人数や費用面を勘案して家族葬を執り行うことにしたそうです。
実際は、遠方に住んでいたり、介護施設に入居していたりで参列できない人もいたため、参列者は6人でした。