2070年の日本の総人口は、現在から約3割減の8,699万人に。高齢者人口は2043年にピークを迎え、その後は減少傾向となるものの、高齢化率は史上最高値の38.7%に達する見込みです。介護業界が、現役世代が労働力となって高齢者の介護をするこれまでの構図のままであるとしたら、50年後は現在よりも4割少ない労働力で高齢者の介護を担当することに……。しかし、50年後は、現在とは比べ物にならないほどに「介護ロボット」などのテクノロジーが発展しているでしょう。ここでは、東北大学で介護・ヘルスケアのための人間支援ロボット研究開発を行っている東北大学平田・サラザル研究室/田村研究室の平田泰久教授にお話を伺い、未来の老人ホームの姿を予想します。
50年後にお世話になるかも…驚愕! 未来の老人ホーム (※写真はイメージです/PIXTA)

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

歩行支援、入浴支援…介護ロボットの現在

そもそも、「介護ロボット」とはどのような性質を持つものなのでしょうか。

 

厚生労働省では、「ロボット」の定義について「情報を感知(センサー系)、判断し(知能・制御系)、動作する(駆動系)」という3つの要素技術を有する知能化した機械システム、と説明しています。

 

そして、このうち「介護ロボット」については「ロボット技術が応用され、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器」と定めています。

 

では、こうした介護ロボットを取り巻く状況はどうなっているのかというと、現在は日本も含め、世界中で開発が行われています。国内では、経済産業省と厚生労働省が「ロボット技術の介護利用における重点分野」として「移乗介助」「移動支援」「排泄支援」など9分野16項目を定めており、さまざまなロボットの開発・普及を支援しています。

 

こうした背景から、現在は老人ホームなど介護施設の現場でも、入居者の生活をサポートするため、さまざまなロボットが導入されています。

 

たとえば、足が悪い高齢者が安全に屋内を移動できる歩行支援ロボット。

 

高齢者がベッドから車椅子に移る動作をサポートする移乗支援ロボット。排泄、入浴を支援するロボット……など、多様な支援ロボットが開発されているのです。

 

歩行支援ロボットも、歩行器型や車いす型、足こぎ型などさまざまなバリエーションが。使う人の状態に応じてロボットを選び、アシスト方法を変えることで適切な支援の提供を目指す。  提供:東北大学平田・サラザル研究室/田村研究室
歩行支援ロボットも、歩行器型や車いす型、足こぎ型などさまざまなバリエーションが。使う人の状態に応じてロボットを選び、アシスト方法を変えることで適切な支援の提供を目指す。
提供:東北大学平田・サラザル研究室/田村研究室

 

ただ、このような物理的な支援をするロボットは、人と直接触れ合うため安全確保の観点から開発が難しいという課題もあります。そのため、平田教授によると、いまでは介護ロボットの新たな考え方が広がっており、高齢者の見守りをする「センサー」も介護ロボットのひとつとする見方もあるそう。介護施設への見守りシステムの導入が拡大しているといい、これにより介護者の巡回の負担が軽減され、現場の効率化が実現できると期待されているようです。

 

また、介護ロボットには運用面での課題もあります。現場の介護者や経営者はロボットに精通しているわけではないため、運用をサポートするためのエキスパートが必要ですが、そうした人々が老人ホームへ常駐するのは現実的ではありません。

 

そのため、今後は施設内で介護ロボットを適切に扱える人材を育成する取り組みが急務といえそうです。