A夫妻の資産には問題なし

数日後、AさんはCさんを連れて再び筆者のFP事務所を訪れ、上記の内容を筆者に伝えたうえで、A家の家計を試算してほしいと頼まれました。

もともとA夫妻は、年金受給額が月33万円で支出は月25万円前後と、収入の範囲内に収まっていました。今回の未納分や延滞料はCさんが自分の資産から支払ったため、Aさんの資産には影響がありません。

したがって、今後海外旅行や自宅の修繕、介護などまとまった支出があっても、今後10年間で500万円ほどの貯蓄は確保できる見込みです。A夫妻は今後も、問題なく悠々自適な老後を送ることができるでしょう。

侮るなかれ…国民年金は「生涯保障」

国民年金保険料は、納めた期間が10年(120月)以上あれば、原則65歳以降に「老齢基礎年金」を受給することができます。

20歳から60歳までの40年間(480月)納付した場合、満額の81万6,000円(月額6万8,000円)受給できます。しかし、1年間未納すると、受給額は年額約2万円減ってしまいます。
※令和6年度

また国民年金は、老齢年金のほかに、被保険者が障がいを負った場合に受給できる「障害基礎年金」や、被保険者が亡くなった際、生計を維持されていた高校3年生までの「子のある配偶者」または「子」がを受給できる「遺族基礎年金」があります。しかし、保険料を未納していると受給できなくなることもあるため、注意が必要です。

なんらかの理由で保険料が納付できない場合には、Cさんのようにむやみに放置せず、市区町村の担当窓口や年金事務所に相談し、善後策を検討することをおすすめします。

具体的には、「保険料免除制度」や「納付猶予制度」といったものが挙げられます。詳しい内容は次のとおりです。

1.保険料免除制度

失業などのさまざまな理由で「本人・世帯主・配偶者」の前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合、つまり保険料を納めることが経済的に困難な場合は、「保険料免除制度」を利用することで規定額の納付が免除されます。

利用するには、本人が申請書を提出し、承認される必要があります。なお、免除される額には、全額・4分の3・半額・4分の1の4種類があります。

2.納付猶予制度

20歳以上50歳未満で、「本人・配偶者」の前年所得(1月から6月までに申請する場合は前々年所得)が一定額以下の場合、「納付猶予制度」を利用することで保険料の納付が猶予されます。利用するには、本人が申請書を提出し、承認される必要があります。

Cさんがこのまま個人事業主を続けた場合、以前会社で加入していた厚生年金の分を含め、65歳からの老齢年金受給見込額は月約10万円です。

これだけで生活するとなると厳しい金額ですが、この10万円は65歳以降、生涯受給できる保障額といえます。ここに、現在Cさんが継続している株式投資などで上積みする資産を形成し、老後の生活に備えるといいでしょう。

Cさんは、「安易な気持ちで滞納を続けたために、親を巻き込んで大変な事態に陥ってしまいました。大事な生涯の保障額を受け取るために、これからはしっかり納付します」とうつむき加減でそう言いました。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員