腸疾患治療の第一人者である松生クリニック院長の松生恒夫氏によると「健康な腸」であれば、自然と「太りにくい体」をつくってくれているといいます。松生氏の著書『腸にいい習慣ベスト100』(総合法令出版)より、腸に備わる「驚きの機能」についてみていきましょう。
「腸内フローラ」=「腸内環境」のことではない
「腸内環境」とよく言いますが、この腸内環境の構成要素は3つあります。
① 腸内フローラ(腸内細菌叢、腸内常在微生物叢ともいう)
② 腸管機能
③ 食事(食事をすることで腸にやってくる栄養分等)
みなさんご存じの「腸内フローラ」は、腸内環境のことではなく、腸内環境の中の1つの要素です。
小腸から大腸にかけて腸の壁にはたくさんの襞があります。襞にはおよそ1000種類、100兆個もの細菌が棲み、フローラ(細菌叢)という群れをつくっています。腸内の細菌は、人が食べた食事の栄養分をもとに発酵して増殖します。
腸内フローラを良好に保つには、食物繊維やオリゴ糖などを摂取することがもっとも重要です。これらは、難消化性多糖類と呼ばれ、腸内フローラのエネルギー源となります。
難消化性多糖類は、大腸内に到着すると、重要な基質(栄養分)として嫌気発酵を行います。この発酵により、腸内フローラはエネルギーを獲得します。
この大腸内発酵における代謝産物は、短鎖脂肪酸、メタン、水素ガス、アンモニアなどです。このうち、短鎖脂肪酸に含まれる「酪酸」は、近年、「天然の痩せ薬」といわれ注目を集めています。
大腸内で作り出される「酪酸」は「天然の痩せ薬」
大腸内発酵の代謝産物である短鎖脂肪酸ですが、これは食物繊維を分解する過程で作り出されます。この短鎖脂肪酸は主に「酪酸」「プロピオン酸」「酢酸」の3種類があり、このうち「酪酸」は、大腸の腸管上皮細胞のエネルギー源で、整腸効果や腸の炎症抑制、免疫力の向上にも作用することがわかっています。
さらに近年、米国の研究により、酪酸に「肥満抑制効果」があることが明らかになりました。脂肪細胞には酪酸を感知するセンサーがあり、酪酸を感知すると、「中性脂肪の蓄えをやめる」という働きが起きるのです。この研究では、「肥満の人の腸内では、腸内細菌叢が変化し、短鎖脂肪酸を作り出す力が落ちている」ことも判明しました。
要するに、腸内細菌および腸内環境が正常ならば、太りにくい体でいられるのです。
松生 恒夫
松生クリニック
院長