日本のフードテックは進化の方向に向かっていますが、海外と比べると実際どの程度なのでしょうか? 私はそのリアルを確かめるために、7月にイギリスを訪れました。多文化が共生するイギリスがコロナ禍を経てどのような変化を遂げているのかが気になったのです。ここでは街中やホテル、レストランなど、国内にすでに浸透し、当たり前の選択肢として確かな存在感を発揮している食分野の先進事例を3つご紹介。それらを支える英国フードテックの実行性の高さをイメージしながら、今後の日本に求められる課題について考えるきっかけにしていただければ幸いです。
現地に行ったら見えてきた…イギリス社会に浸透しているフードテック、食シーンの最新事例3つ (※写真はイメージです/PIXTA)

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

イギリスではすでに当たり前。フードテック躍進を実感するトピックスとは?

①完全栄養食の存在感が増している(ヘルスフードテック分野)

ドラッグストアはもちろんのこと、スーパーマーケットでも当たり前のように陳列されている“完全栄養食”をコンセプトにした商品(著者撮影)
ドラッグストアはもちろんのこと、スーパーマーケットでも当たり前のように陳列されている“完全栄養食”をコンセプトにした商品(著者撮影)

 

まずは日本よりも大きな先進性を感じた「完全栄養食」の事例からはじめていきましょう。日本においても同コンセプトを掲げる食品ブランドが少しずつ登場していますが、イギリスではより強い存在感を放っていることを実感しました。ドラッグストアはもちろんのこと、スーパーマーケットのドリンクコーナーには必ずと言っていいほど、冷蔵庫の見やすい場所に完全栄養食が並んでいます。

 

中でも一番目立ったのが、「Huel(ヒュエル)」。世界100カ国以上で3億食以上を販売する実績のある完全栄養食のブランドです。「動物や環境への影響を最小限に抑えた、便利な完全栄養食を作り、多くの方が続けやすい価格で提供する」をコンセプトに、素早く食べることができる栄養バランスの取れた食品を製造・販売しています。

 

駅構内の切符売り場の隣に設置されたHuelの自動販売機(著者撮影)
駅構内の切符売り場の隣に設置されたHuelの自動販売機(著者撮影)
 

驚いたのは、駅構内の自動販売機でも見かける点。イギリスで忙しい毎日を過ごす現代人の生活にいかに浸透しているのかを実感しました。そして特筆すべきは、同ブランドが食事摂取基準値の数値を満たしているだけの数字合わせや名前先行の商品ではない点にあること。

 

食物不耐性(ラクトース、大豆など)やアレルギー、宗教上の食習慣(動物性素材)などにおいても広くカバーする原材料や製法にこだわり、使用する水や副産物のリサイクルまで細かく設計されています。つまり、消費者の一次的願望としての“忙しい時の食事代替食”という次元をはるかに大きく超えた商品設計になっているのです。

 

これは日本ブランドではまだ見かけないレベル。詳しい製法は開示されていませんが、ブランドコンセプトを実現するための徹底した商品設計と製造技術が根底になる、未来志向の食品であることは間違いありません。

 

これらを可能にしているのは、学術研究と食品開発の連携による技術力の結晶に他なりません。