毎年秋に奈良国立博物館で開催されている「正倉院展」(今年は10月26日~11月11日開催)。1300年前の聖武天皇ゆかりの宝物を見るために、毎年全国から多くのファンが訪れます。ここでは、正倉院の宝物である「正倉院紋様」を、和と着物の専門家である池田訓之氏が取り上げます。
和の心と正倉院
聖武天皇の約650点のコレクションを納めることから始まった正倉院の歴史ですが、いまやそこに眠る宝物は9,000点に上ります。1300年も昔の宝物が壊されることなくいまも美しい状態で現存するというのは、世界的に見てとても稀有なことでしょう。
万物に神様を感じて感謝を覚える、だから自己主張を抑えて、周囲との調和を重んじる。これが和の心ですが、日本人は、島国で温暖な地に育ち、敵の襲来を受けることがなく、また食べ物に恵まれたので、縄文の古来より和の心を抱き続けることができたのです。そして、この和の心が、正倉院の奇跡を生みました。
正倉院の始まりから1300年がたった昨今の日本では、災害が度重なり発生していますが、コンビニなどが略奪にあうこともなく、避難民は、配給をわけあって、必死に復旧に励んでいます。そしてこの姿は海外で尊敬の念をもった繰り返し紹介されています。現代も和の心は日本人の心に流れているのです。一方で、衝動的に人を傷つけるなど身勝手な行動をする人が散見されることも事実です。和の心が薄まっているのかもしれません。
我々日本人が古来より羽織ってきた着物は、直線裁ちで余りを裏に入れ込んで仕立てるので、解くと一枚の反物に戻すことができ、洗って、次の世代へ仕立て直して伝承していくことができます。
また、着物を着るときには太い帯でお腹を締めるので、自然に丹田に氣が下がり自己抑制力が高まります。着物の生活が、自我を抑え調和を重んじる和の心を育んできたといわれているのです。着物を着ることが少なくなった戦後の生活が、衝動的な行動を招いている一因と筆者は考えています。また、着物を着なくなった結果、正倉院から発展させた、さまざまな染めや織の技法の伝承者が激減しています。
着物を着て和の心をつないで、正倉院の宝物を後世に伝えていき、雅で、穏やかな、日本を守っていきたいものですね。
池田 訓之
株式会社和想 代表取締役社長
(※本稿はあくまでも一例で、地域や宗派により内容は異なることがあります。)