音楽を聴いているとき、なんとなく日本語の歌よりも洋楽のほうがかっこいいと思ったことはありませんか? この日本語と英語の聞こえ方の背景には、「農耕民族」と「狩猟民族」の違いが隠れているかもしれないと、シュールなあるあるネタで知られる芸人のふかわりょう氏は考察します。ふかわ氏と気鋭の言語学者・川添愛氏が、著書『日本語界隈』(ポプラ社)より対談形式で「日本語の妙味」について語ります。
英語の「オノマトペ」は、言葉に“組み込まれている”
ふかわ:オノマトペって、外国にもあるんですか?
川添:あります。日本語と英語のオノマトペを比較した研究もあります※。英語のオノマトペは、動詞に組み込まれている例が多いみたいですね。たとえば「crash」とか「smash」みたいに、動詞の最後につく「-ash」が「強い打撃」を表すとか。
※ 『オノマトペ 形態と意味』田守育啓、ローレンス・スコウラップ(著)、くろしお出版。
ふかわ:どちらも似た感覚、現象がありますね。
川添:そうですよね。あと、動詞の頭に「fl」がつくのは、速さに関連しているとも言われていますね。「flip」とか「flap」とか。
ふかわ:オノマトペとして独立するのではなく、動詞に組み込まれているというのが日本との違いというか。農耕民族と狩猟民族の違いがある気がします。
時間への向き合い方、スピード感みたいなものが違う気がするんですよね。1年周期で作物を育てる民族と、獲物を見つけたら即座に仕留めなければならない民族と。身の危険もあるから、結論をさっと伝える必要性がある。ジェスチャーが大きいのも同じ背景でしょう。
日本語みたいに、最後まで聞かないと否定なのか肯定なのかわからないなんて、困るわけですよね。文法の違いもそういうところから来ているのかなと思っているんですけど。
川添:「クシャッとつぶす」なんて言っていられないから、「クラッシュ」。1語にしちゃえということでしょうか。たしかに「クラッシュ」のほうが、勢いは感じますね。
ふかわ:ゆっくりしゃべっていられないという。
川添:他方、日本語で独立した語としてのオノマトペが多いということは、それだけ自分が受けた印象を正確に伝えたい、シェアしたいという欲求の現れかもしれませんね。
ふかわ:正確性というか、かゆいところに手が届く感じが日本語にある気がします。緻密な表現が得意なんじゃないかと。
川添:日本語のオノマトペを見ていると、相手に伝えるときの熱量の強さを感じますね。医療用語とか、腹痛ひとつとってみても、「シクシク」「チクチク」「キリキリ」など、いろんな言い方がありますし。
ふかわ:「辛(から)い」という言葉がない国もあると聞いたことがあります。あっても、英語なら「hot」1択ですよね。
川添:味に関しても、日本語は豊かですよね。それも味の豊かさとつながっているところがあるのかもしれません。
ふかわ:昔にくらべてイギリスもおいしいものが増えてきていると言っても、イギリス人の国民性は食文化に反映されている気がします。
川添 愛
言語学者
ふかわりょう
お笑い芸人