デジタル化が進むにつれて増えつつある電子契約。紙での契約とはどのような点が異なり、その法的効力はどれほどまでに及ぶのでしょうか。電子契約のメリット・デメリットについて、弁護士法人山村法律事務所の代表弁護士である山村暢彦氏が解説します。
普及する「電子契約」だが…「紙」と同様に法的効力はある?導入する際に知っておきたい注意点【弁護士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

電子契約には、どこまで「法的効力」がある?

まず、大前提として、口頭のみでも契約は有効に成立するという「契約方式自由の原則」があります。実際、LINEやメール、ショートメッセージなど、可読性のある文字で合意されていれば、裁判の証拠としても有効となりますが、毎度、裁判でその信憑性を争うような不安定さでは困るため、実務面においては、判子を押した紙の契約書を作るのが、一般的となっています。

 

では、紙の契約書に判子を押すのはなぜかというと、民事訴訟法の以下の条文で定められる、「2段の推定」という効果を得るために、判子を押した契約書を作成するのが通例となっているためです。

 

(文書の成立)

 

第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

 

4 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する

 

ここでいう「真正に成立」という表現は、その文書が作成者の意思にしたがって作成したものという意味です。つまり、冗談で書いたものや、強迫などにより、捻じ曲げられて作成したものではないことを証明しなければならない、という定めです。

 

しかし、毎度、「いや、こんな書面は本気ではなかった」と言い訳され、裁判しているわけにはいかないので、「署名または押印」がある際には、その書面内容通りの意思があり、書面を作成したものだと推定する、という規定が置かれることになったのです。

 

ちなみに海外では、契約時に「サイン証明」をするのが主流であり、法律上は、「サイン」や「署名」と「判子」は同じ扱いです。ただし、サイン証明の場合、筆跡鑑定で整合性を判断しなければならず、手間がかかります。それで、これまでの日本では、一般的に判子が用いられていました。

 

それでは、電子契約の「法的効力」はどうでしょうか? 現在は、電子署名法が整備され、以下の規定が置かれました。電子署名があれば、民事訴訟法228条4項と同様に、「真正に成立したもの」と推定する効果が受けられるため、これにより、紙の契約書と同様の推定を受けられるようになりました。

 

第二章 電磁的記録の真正な成立の推定

 

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する

 

すなわち、電子署名のある電子契約については、法律の効果上も、判子の捺印された文書と同様の推定を受けられるようになり、法的効力に違いがなくなってきたため、普及してきたと考えられます。