よい子は真似しないでください!?…篠崎家流「やる気」の出させ方

父は、将棋やカードゲームなど、人との駆け引きを楽しむことが好きだった。私に練習させることもゲームの一環として楽しんでいた。

私に新しい曲の楽譜とお金を見せて、たとえば「チャイコフスキーのコンチェルト、2週間でどうだ?」などと尋ねてくる。父が決めた期限で弾けるようになれば報酬がもらえる。2週間を超えてしまえば、逆に罰金を払わないといけない。目の前にニンジンをぶら下げられている状態だ。父はいつだって、私の好奇心や競争心をくすぐるだけくすぐった。

もちろんお小遣いが欲しいし、もともとが負けず嫌いなので受けて立つ。でも相手はプロ。「史紀の実力ならこの曲をマスターするにはこれぐらいの期間かかるだろう」と、わかっている。たとえば「2週間でどうだ?」というときは、2週間はきついけど3週間あればできるという、ギリギリのところをついてくる。

父はポーカーや花札も好きだった。ヴァイオリンを弾いていた叔父も一緒にやった。

子ども相手なのに、父も叔父も勝負には容赦ない。手加減もしない。平気で高度な作戦を仕掛け、欺いてきたりする。

でも負けた悔しさは意外にすぐ忘れ、駆け引きをするときのドキドキした気持ちや、勝ったときにアドレナリンがあふれる感覚を覚えた。

どんなに勝っていても、調子に乗って一歩歯車が狂わせると転落する。ベットの意味やベットを使うタイミングも教え込まれた。ここまでは楽しいけれど、ここから先は楽しくないという感覚も覚えたし、引き際の大切さも学習した。そのおかげか、外で博打をやりたいという願望はいっさいなくなった。

父独特の教育法で、私の性格には実に合っていた。とはいえ「よい子は真似しないでください」と、注釈をつけておかないといけないだろう。
 

篠崎 史紀
NHK交響楽団特別コンサートマスター/九州交響楽団ミュージックアドバイザー