夏の夜空を彩る打ち上げ花火。コロナ禍で自粛となっていた花火大会も、今年は完全復活となる見込みです。そんな花火が、昨今はさまざまなテクノロジーを盛り込むことで、新たな形へと変貌を遂げていることをご存じでしょうか。「伝統」と「最新テック」により観るものを魅了する、最新の花火事情に迫ります。
日本の伝統文化が最新技術で進化!“令和の花火”で導入されているテクノロジー最前線

デジタルツインで進む花火DX”

次に、インターネットに接続した機器などを活用して現実空間の情報を取得し、サイバー空間内に現実空間の環境を再現する技術「デジタルツイン」を花火大会に活用する動きをご紹介しましょう。コロナ禍では、衛星データを用いて作成したデジタルツイン空間上での「デジタル花火大会」が一部の都市を舞台に開催されましたが、こうした動きにとどまらず、花火大会の「運営改善」にデジタルツインを活用しようという動きも出始めています。

 

電気通信工事や電気工事などを手掛けるミライト・ワンと花火大会等のイベントの企画・運営などを手掛けるFIREWORKSは共同で、2023年6月から「デジタルツイン」を活用してイベント会場の設営計画を支援するサービス「イベントDX:設営計画サービス」の提供を開始しました。これは、デジタルツイン技術を用いて花火大会などの会場を、パソコン上に正確な立体図面(3D)として再現。その立体図面を利用してシミュレーションすることで、会場設営や安全対策費にかかるコストを削減しようという試みです。

 

「イベントDX:設営計画サービス」の立体図面の一例(ミライト・ワン提供)
「イベントDX:設営計画サービス」の立体図面の一例(ミライト・ワン提供)

 

立体図面のメリットは、会場を俯瞰で確認したり、ゲートや看板を“人の目線”で確認したりすることが可能なこと。特に大規模な花火大会では、会場設営に必要な大量のテントや椅子などの什器の用意や、警備員や交通規制の安全対策などに開催費用の多くが割かれていますが、立体図面を用いることで、たとえば地形の段差や人の動線を考慮して什器を適切に配置する計画を立てられるようになり、無駄な発注を削減することができる……というわけです。

 

さらに、自治体や警察に対しての警備計画の説明も、立体図面であればこれまでの平面図による説明よりも内容が伝達しやすく、説明にかかる稼働が削減できるという効果も見込めます。立体図面はクラウド経由でタブレットやスマートフォンに共有できるので、搬入業者や運営スタッフにも設営計画を共有することで、スムーズな運営が図れる、というわけです。実際、設計図作成のための外注費や余剰物品の削減、現地調査費用の削減などにより、導入後に会場設営・安全対策費が前大会より15%削減するなどの成果を生んだという実例も。

 

2024年7月13日に福島県相馬市で開催された「相馬花火大会inSOMAシーフェス2024」(ミライト・ワン提供)
2024年7月13日に福島県相馬市で開催された「相馬花火大会inSOMAシーフェス2024」(ミライト・ワン提供)

 

この「イベントDX:設営計画サービス」はこれまで、2024年7月13日に福島県相馬市で開催された「相馬花火大会inSOMAシーフェス2024」などの花火大会で導入されており、今後は花火大会にとどまらず、プロスポーツイベントや音楽フェスなどの大規模イベントで展開を構想。イベント開催の持続性を高め、より多くの地域の地域活性化に貢献していく考えです。

職人の手によって進化してきた花火は新たなステージ

これまで見てきたように、最新のテクノロジーによって進化する打ち上げ花火の演出ですが、現代では花火そのものも進化し、新たなステージへと突入しています。たとえば、時間差で横にスライドしながら花火が光る「スライド牡丹」。これは火薬の燃焼時間を少しずつ変えることで発生する「ズレ」を応用したもので、立体的な美しさを表現するための最新技術のひとつとされています。

 

このように、職人の手によって進化を続ける花火は、今回ご紹介したような最新のテクノロジーも取り入れながらこれからも多様な変化を遂げ、観るものを魅了していくことでしょう。最新テクノロジーを伝統が組み合わさった「令和の花火」に今後も目が離せません。

 

 

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<著者>

文/カワハタユウタロウ

フリーライター。大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、Eコマース・通販関連業界紙の編集部に約7年間所属。その後、新聞社系エンタメニュースサイトの編集部で記者として活動。2017年からフリーランスのライターとして、エンタメ、飲食、企業ブランディングなどの分野で活動中。