3年ほど前から業務委託の宅配ドライバーとして働く近藤剛史さん(仮名)。“新しい働き方”という紹介に惹かれ、思い切って飛び込んでみたものの、いまとなっては「失敗だった」と嘆きます。ルポライター増田明利氏の著書『お金がありません 17人のリアル貧困生活』(彩図社)より、日本の労働者の実態と、業務委託という契約形態のワナについて、詳しくみていきましょう。
ハンドルを握るのが怖い…約3年間「1日12時間労働」を続ける月収34万円・53歳宅配ドライバーの悲痛な叫び【ノンフィクション】
しくじった…“業務委託”に隠れた落とし穴
あくまで噂話だが、別の営業所に出入りしている委託ドライバーが突然死したという話を聞いたこともある。自分の健康と同じく、事故に対する心配も大きい。
「ここまでは無事故でやってきたけどヒヤリとしたことは何度かある。特に終わり近くの夜間は怖い、朝からの疲れが影響しているのか睡魔に襲われて瞬間的に意識が飛ぶことがある。信号と信号の間400メートルくらいの距離を何も覚えていないことがありました」
一昨日の夕方には環七通りで2トントラックと乗用車、オートバイが絡む多重事故を処理している現場横を通ったのだが、こういうのを見てしまうとハンドルを握るのが怖くなる。
「社員じゃないからぶつけてもぶつけられても、会社が助けてくれたり事後処理をしてくれたりはしません。有給休暇もないから干上がってしまう」
この仕事を始めてそろそろ3年になるが、正直なところ「失敗したなあ」「こんなことだとは思っていなかった」というのが本音だ。
「新しい働き方と言われ、いいかもしれないとやる気になりましたけど、現実には会社に都合のいい働かせ方だと思うんです。雇用契約がないから社会保険に加入しなくていい、健康診断もやらない、退職金も払わない。安く使うための方便だったと気付いたけど後の祭りです。しくじったと思いますね」
病気や怪我、事故の場合でも業務委託だから簡単に切られてしまう。やっぱりおかしいと思うのだ。
「辞めたらマンション管理人に戻るか、ハローワークでよく勧められた介護。さもなくば求人倍率が高い警備ぐらいしか行くところがない。それでも今よりはましかなって思うんです」
このままでは早晩、身体を壊すか事故を起こしてしまうかだと思うのだ。
食品会社をリストラされてよく分かったのは、やり直せる社会なんて嘘っぱちだということ。
「1度の失敗やつまずきでおしまい。これが本当のことですよ」
特別な資格や特技のない人間は、ひたすら長時間労働するか賃金の低い仕事に甘んじるしかない。こんな社会に希望があるのかと思う。
増田 明利
ルポライター