<前回記事>恐ろしい…もし月がなかったら、地球はこうなる【宇宙科学】 

月の環境は地球とはまったく異なる

地球から月までの平均距離は約38万km。月面に人類最初の一歩を記した「アポロ11号」は、地球を発ってから月に着くまでに4日と6時間かかりました。

月の重力は、地球上の重力の約6分の1。単純に計算すれば、体重60kgの大人が10kgになる計算です。しかし、重い宇宙服を着ているのと、小さすぎる重力のもとでは歩くのは決して楽ではありません。

アポロ計画で月面に降り立った宇宙飛行士の映像では、何かを拾おうとしては簡単にこけてしまう様子なども見られます。宇宙飛行士たちは、月では小さく飛び跳ねるように歩いていたようです。

出所:NASA/Saturn Apollo Program
【図表】宇宙飛行士の足跡 出所:NASA/Saturn Apollo Program

また月面には、地球上の砂浜の砂よりもずっと細かい月の砂「レゴリス」があります。

この砂は、岩石の粒子や小天体の衝突によって生成したガラスを含む粉末などから成っています。レゴリスは、静電気によって宇宙服や観測機器などにくっつく、少々やっかいな存在でもあります。

さらに、月に太陽の光が当たる昼間の温度は110度まで上がり、一方で日が当たらなくなる夜にはマイナス170度まで下がります。

昼と夜の温度差は約300度。このような温度差ができるのは、月には地球にあるような大気がほとんどないからです。

大気がほとんどないため、月では真昼でも空は真っ暗です。

このように、地球とはまったく異なる環境ですが、いつか人類が月に住むときがくるかもしれません。

「月での暮らし」はそれほど遠くない?

2022年、NASAの国際宇宙探査計画「アルテミス計画」(2026年以降に月面に人類を送って月での持続的な活動を目指す)の最初のミッション「アルテミスI」が成功しました。

月の軌道には、新たな宇宙ステーションとなる「ゲートウェイ」も建設予定です。日本のJAXAも居住棟の技術提供を担当しています。

さらにNASAはアポロ計画以来、約50年ぶりに月面に人類を送る計画を進めています。

再び月面へと向かう人類ですが、月には一体どのような魅力があるのでしょうか。

まず一つは、エネルギー源として期待される「ヘリウム3」という物質の存在です。

ヘリウム3は大きなエネルギーを生み出す核融合反応の材料になります。地球上にはほとんどありませんが、月の土壌には数十万tあると推定されています。磁場によって守られている地球とは異なり、磁場の弱い月には太陽から吹き出す太陽風によって大量のヘリウム3が運ばれているのです。

このヘリウム3が1万tあれば、全人類の100年分のエネルギーが賄えるとも言われているのです。

ただし、ヘリウム3を取り出すには、大量に月の砂を処理する必要があり、さらに高度な核融合技術も必要なため、実用化はまだずっと先になりそうです。

次に、月面に「巨大望遠鏡」を作る計画があります。

月には大気がないので、星の光が途中で吸収されたり散乱されたりせずに届き、地球よりも観察がしやすいのです。

また、月の裏側は地球からの人工的な電波が届かないので、電波望遠鏡を建設するのに理想的な場所のようです。

そして、月での暮らしを考えたときには、月にはアルミニウム、チタン、鉄などが豊富にあり、月面で利用できれば様々な素材を現地調達することが可能です。

さらに、月の南極や北極には、「永久影(えいきゅうかげ)」と言われる場所があり、そこには水が氷として地下にあるのではないかと考えられています。

そのため、現在世界中で月面での水探査の計画が進められています。生物が生きていくには欠かせない水ですが、月面で水が豊富に発見されれば、月面基地への大きな一歩になりそうです。

課題を一つ一つ確実にクリアしていけば、月面基地の建設は十分に実現可能だと言います。月で暮らす未来は、それほど遠くはないのかもしれません。

【著者】宇宙 すずちゃんねる 
数億年後の地球の姿や太陽系惑星の秘密、生命誕生の奇跡など、ロマンあふれる宇宙について解説する宇宙科学YouTubeチャンネル。チャンネル開設からわずか2年足らずでYouTube登録者数は27万人を超える。

【監修】渡部 潤一 
1960年福島県生まれ。1983年東京大学理学部天文学科卒業、1987年同大学院理学系研究科天文学専門課程博士課程中退。東京大学東京天文台を経て、現在、国立天文台上席教授および総合研究大学院大学教授。国際天文学連合副会長。
著書に『賢治と「星」を見る』(NHK出版)、『第二の地球が見つかる日』(朝日新書)、『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書)など多数。