ふと夜空を見上げたとき、宇宙にはたくさんの星があり、私たちが暮らすこの地球もまたその星々の一つにすぎないという事実に、心が揺り動かされた経験はありませんか。YouTuber・宇宙 すずちゃんねる氏の著書『眠れない夜に読みたくなる宇宙の話80』(監修・渡部潤一氏、KADOKAWA)より一部を抜粋し、今回は「冥王星」にまつわるエピソードを紹介します。
<前回記事>「アポロ11号」の月面着陸から約50年、人類が「再び月を目指す」理由【宇宙科学YouTuberが解説】
現在の太陽系は「水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星」
そもそも太陽系とは何でしょうか。
太陽系とは一言で、「太陽とその周りをまわる天体によって構成される系」です。
つまり、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、そして海王星の八つの惑星。そして、これらの惑星の周囲をまわる衛星たち。さらに、小惑星、彗星、惑星間のチリやダストなどもすべて太陽系に含まれるのです。
それでは、太陽系は一体どこまで広がっているのでしょうか。
太陽系の惑星のうち一番外側をまわる海王星は、地球と太陽間の距離の約30倍のところをまわっています。
さらにその外側には、冥王星や太陽系外縁天体(がいえんてんたい)と呼ばれる天体がまわっています。なかでも一番遠いものは、地球と太陽間の距離の100倍よりも遠いところにあることが分かっています。
太陽から噴き出した太陽風はだいたいこの範囲で、衝撃波を形成して行き止まりになります。ここまで外向きに吹いてきた太陽風が、恒星の間を漂う星間物質と衝突し、速度がガクンと落ちてしまうのです。
しかし、これが太陽系の果てというわけではないようです。
実際、多くの彗星が今もその外側からやってきていて、太陽系の影響範囲は広がっているのです。
彗星たちの多くは、球状の雲のように分布した「オールトの雲」からやってきます。その範囲は、地球と太陽の距離の数万倍も広がっています。
「水、金、地、火、木、土、天、海…」から「冥王星」が外れた理由
かつては惑星と言われていた「冥王星(めいおうせい)」ですが、現在は太陽系の「準惑星」に分類されています。
惑星の定義は、
1. 太陽の周りをまわっていること
2. 丸い形になれるだけの質量、重力があること
3. その周辺でダントツに大きく、周囲のほかの天体の軌道を変えて、排除してしまっている存在であること
です。冥王星は、この三つ目の条件を満たすことができなかったのです。
実際、冥王星の付近には冥王星よりも大きな天体が次々と発見されました。冥王星は地球と比べても5分の1以下の大きさで、月よりも小さいのです。
では、そこにはどのような世界が広がっているのでしょうか。
「死んだ準惑星」と考えられてきた冥王星、実は生きていた
冥王星は、地球から最も遠い場所にいる探査機「ボイジャー」さえも訪れたことがありません。なお、ボイジャーは1、2号とも今も稼働しています。
2006年に打ち上げられたNASAの冥王星探査機「ニューホライズンズ」が唯一、冥王星に接近し、至近距離から撮影しました。
冥王星の姿でまず目を引くのは、白っぽくハートの形をした部分です。ここは冥王星を発見したアメリカの天文学者クライド・トンボーに由来して、「トンボー地域」と呼ばれています。
そこには氷の厚さが4kmほどの巨大な盆地「スプートニク平原」が広がり、多角形のパターンが見られます。研究の結果、この模様は湧き上がってきた氷が作り出していることが分かりました。
その事実から、「活動を終えて死んだ準惑星」と考えられてきた冥王星ですが、実際は内部が活発に活動している「生きた準惑星」だったのです。さらに、地下には海が存在していることも分かっています。
太陽から遠く離れた小さな氷の天体が、まだ盛んに活動しているとは、ほとんどの天文学者は予想していないことでした。
冥王星のように小さく、遠くにある天体を探査するのはとても難しいことです。
ニューホライズンズは、9年かけて冥王星に近づきましたが、接近して観測できたのはわずかな時間だけでした。
それでも、そのわずかな時間で取得できた情報は、惑星科学の分野に革命的な成果をもたらしたのです。そして冥王星を探査した後、今もなおニューホライズンズは宇宙の旅を続けています。
この広い宇宙では、これまでの常識が覆るような天体がほかにもたくさんあるかもしれません。私たちが見ている宇宙は、この大宇宙のほんの一部でしかないのだと実感させられます。
【著者】宇宙 すずちゃんねる
数億年後の地球の姿や太陽系惑星の秘密、生命誕生の奇跡など、ロマンあふれる宇宙について解説する宇宙科学YouTubeチャンネル。チャンネル開設からわずか2年足らずでYouTube登録者数は27万人を超える。
【監修】渡部 潤一
1960年福島県生まれ。1983年東京大学理学部天文学科卒業、1987年同大学院理学系研究科天文学専門課程博士課程中退。東京大学東京天文台を経て、現在、国立天文台上席教授および総合研究大学院大学教授。国際天文学連合副会長。
著書に『賢治と「星」を見る』(NHK出版)、『第二の地球が見つかる日』(朝日新書)、『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書)など多数。