【前回記事】知れば不思議な気持ちになる「天の川」の正体

そもそも、月はどうやって誕生したのか

地球に最も近いところにあり、最もなじみ深い天体といえば月ですよね。

日本人は古くより月を眺めて風情を感じたり、ときに豊作を願ったり、文化や生活に深くかかわり合ってきました。

月の直径は約3400kmで、地球の4分の1ほどの大きさです。木星や火星といった惑星の衛星たちと比べると、月は地球に対してずいぶん大きな衛星といえます。

なぜ、これほど月は大きいのか、そもそも月はどのように誕生したのか。

月の誕生については長い間議論されてきたものの、実はまだよく分かっていません。しかし、仮説が四つほどあるので、それらを紹介したいと思います。

一つは「兄弟説」です。原始太陽の周りに無数にあった「微惑星(びわくせい)」が衝突と合体を繰り返して地球が作られるときに、月も同じような過程を辿ってできたのではないか、という説です。

もう一つが「分裂説」。地球がまだ高温でやわらかかった時代に、一部が遠心力によって地球から飛び出したという説です。

ただし、どちらの説も月から持ち帰られた岩石を調べるなどした結果、今では否定されるようになっています。

三つ目が、地球と離れたところでできた月が地球を通りすぎるときに、たまたま地球の引力に引き寄せられたとする「捕獲説」です。しかし、この説も現在では力学的に無理があると考えられています。

イラスト:熊アート  出所:宇宙 すずちゃんねる著、渡部潤一監修『眠れない夜に読みたくなる宇宙の話80』(KADOKAWA)
[図表1]様々な月誕生説 イラスト:熊アート 
出所:宇宙 すずちゃんねる著、渡部潤一監修『眠れない夜に読みたくなる宇宙の話80』(KADOKAWA)

そして、今最も有力なのが「ジャイアント・インパクト説」です。

地球は微惑星同士の衝突・合体でできたと説明しましたが、これまでとは比較にならないほど巨大な天体(原始惑星)が、原始地球をかすめるように衝突したという説です。

この衝突によって生まれた天体の破片と、吹き飛ばされた原始地球の一部が、地球をまわりながら互いの重力で集まることで、月ができたというのです。

この説はコンピューターによるシミュレーションでも再現され、現在では最も有力だと考えられています。

月を眺めるとどこか懐かしいような不思議な気持ちになります。

それはきっと、はるか昔に生きた私の先祖が、月を眺めて物思いにふけった経験が細胞レベルで私に刻まれていて、そんな気持ちにさせているのかもしれません。

今は1日=約24時間だが…「1日の長さ」は「月と地球の距離」で変わる

出所:NASA/From a Million Miles Away, NASA Camera Shows Moon Crossing Face of Earth
[図表2]地球を横切る月 出所:NASA/From a Million Miles Away, NASA Camera Shows Moon Crossing Face of Earth

月が地球をまわる軌道は楕円形なので、月と地球の距離は最も離れているときで約40万km、最も近づくときで約36万kmとなります。

そして、月は毎年3cmほど地球から遠ざかっています。これにより、長い目で見れば一日の長さが変化するといった影響があるようです。

実は、月ができたばかりの頃の地球は、一日8時間ほどの速さで自転(地球が地軸を中心にして一回転すること)をしていました。しかし、月が少しずつ遠ざかることで地球の自転速度が遅くなり、現在は一日約24時間の速さに落ち着いています。

月は現在も遠ざかっているので、ずっと先の未来では一日がもっと長くなると考えられています。地球の自転が約47日まで遅くなったとき、つまり一回転するのに47日もかかるようになったとき、月はようやく遠ざかるのをやめて同じ場所にとどまってまわります。

このようになるのは計算上、100億年ほど先のことのようですから、心配には及びませんね。

これまでもこれからも、ずっと月は私たちのそばにいてくれるのです。

出所:NASA/JPL/Earth - Moon Conjunction
[図表3]月と地球を同時に撮影した写真 出所:NASA/JPL/Earth - Moon Conjunction

もし月がなかったら、地球はこうなる

月と地球は、互いに引力で引き合っています。この引力と、引き合いながらまわる遠心力によって、海の潮の満ち引きが起こります。

もしも月がなかったとしたら、潮の満ち引きはとても小さなものになってしまうでしょう。そして海だけでなく、地球そのものが今のような生命あふれる惑星にはなり得なかった可能性もあるのです。

では、もし月がなかったら、どのような変化が起きるのでしょうか。

前にご説明したように、月は地球の自転スピードを遅くする役割を持っています。もし月がなかったとしたら、地球は一日8時間という、今の3倍の速さで自転することになってしまいます。

すると地表は風がとても強くなり、天候は大荒れになるでしょう。生命が誕生できたとしても気候は安定せず、今のように豊かな地球は見られなかったはずです。

また、月は、地球の自転軸を約23.4度傾いた状態に保つ働きもあります。この傾きのおかげで、地球に春夏秋冬の四季が生まれているのです。

もし月がなければ、地球の傾きは予測不能な変化を起こし、それによって大規模な気候変動が起こっているかもしれません。

もっと身近なところで考えると、満月の夜は月明かりを感じて少し明るい夜を過ごせますが、月がなければ夜は今よりずっと暗くなるはずです。

月を詠んで楽しんだり、月を眺めて寂しくなったりすることもないのです。

このように、月があるからこそ、私たちは様々な恩恵を受けられ、地球上で穏やかに暮らせているのです。

出所:NASA/JPL/USGS/Earth Moon
[図表4]ガリレオ探査機が撮影した月 出所:NASA/JPL/USGS/Earth Moon

【著者】宇宙 すずちゃんねる 
数億年後の地球の姿や太陽系惑星の秘密、生命誕生の奇跡など、ロマンあふれる宇宙について解説する宇宙科学YouTubeチャンネル。チャンネル開設からわずか2年足らずでYouTube登録者数は27万人を超える。

【監修】渡部 潤一 
1960年福島県生まれ。1983年東京大学理学部天文学科卒業、1987年同大学院理学系研究科天文学専門課程博士課程中退。東京大学東京天文台を経て、現在、国立天文台上席教授および総合研究大学院大学教授。国際天文学連合副会長。
著書に『賢治と「星」を見る』(NHK出版)、『第二の地球が見つかる日』(朝日新書)、『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館101新書)など多数。