厚生労働省の令和3年度全国ひとり親世帯等調査によると、過半数以上の父親が養育費を一度も支払ったことがありません。また、養育費の取り決めに関しても、過半数以上の夫婦は取り決めをしていないことがわかります。しかし、取り決めをしていたり、養育費を支払っている関係でも深刻なトラブルが発生しているようです。本記事では牧島慎之介さん(仮名)の事例とともに、行政書士の露木幸彦氏が離婚後の養育費支払いの実態について解説します。
離れて暮らす高校生の娘「パパとディズニーに行きたい!」に強烈な違和感…養育費・月12万円を支払ってきた、役職定年で収入半減・年収500万円の56歳父、元妻の目論見に撃沈【行政書士が解説】
養育費と面会は対価関係ではない
養育費は最初から最後まで同じではなく、事情変更によって見直すことが認められるという法律の条文があります(民法880条)。慎之介さんの収入減もこれに該当するでしょう。
しかし、元妻は「学費を払わないとどうなるかわかっているの?」と暗に面会のことに言及してきたのです。面会できるかどうかは子どもの気持ちも大事ですが、最終的には元妻が決めることです。これは元妻がディズニーデートを学費請求の場に使ったことからも明らかです。元妻が娘さんの尻を叩いたのでしょう。
今回、慎之介さんが学費を全額、支払ったからといって確実に娘さんと面会できる保証はありません。つまり、面会できるかどうかは慎之介さんの手の届かないところにあります。
慎之介さんは「仕方がありません。水上バイクを売って、学費に充てます」と譲歩。虎の子の水上バイクを手放す決心をしたのです。水上バイクは100万円程度で売れそうなので、これを学費に充当すると残り60万円です。
養育費と面会は対価関係ではないというのが通説です。これは養育費を払わなければ面会できない、養育費を受け取ったら面会させなければならない、面会したいなら養育費を払わなければならない、養育費を受け取っていないから面会させなくてもいい……これらの考え方はすべて間違っています。養育費は養育費、面会は面会で別々に考えるべきです。
つまり、慎之介さんが学費の一部しか支払わず、娘さんがそのことを知り、それでも面会したいと思えば面会できるし、そんな父親と面会したくないと思えば面会できません。現時点ではわからないので、気にしても仕方がありません。最終的には元妻が観念し、残りの60万円はひとり親向けの奨学金を利用することにしたのです。
離婚時の約束を守るのが大前提であることはいうまでもありません。しかし、弱音を吐けずに休日、アルバイトを詰め込んだ結果、体調を崩して平日の仕事を失ったり、借金を重ねて自転車操業に陥り、経済的に破綻したりするケースもあります。そうなる前に恥を忍んで一歩、踏み出したほうがいいでしょう。
露木 幸彦
露木行政書士事務所