人生100年時代といわれるいま、定年後も再雇用などで勤務可能な企業が増えています。とはいえ、60歳での完全引退を考える人も少なくありません。高校卒業以来がむしゃらに働いてきたAさん(59歳)もそのひとりです。しかし、日本年金機構から届いた封筒に愕然。老後のプランが大きく揺らぐことに……いったいなにがあったのでしょうか。株式会社よこはまライフプランニング代表取締役でCFPの五十嵐義典氏が解説します。
高卒・たたき上げ→執行役員まで出世した年収1,200万円・59歳の“やり手”サラリーマン、日本年金機構から届いた“青色の封筒”に思わず「なにかの間違いでは」【CFPの助言】
年金受給額を増やす方法はまだある
このほか、「繰下げ受給」によって年金を増額させる方法もあります。
Aさんが60歳以降も勤務するようであれば、継続して給与収入が入ります。また他に貯蓄や退職金があると、必ずしも65歳から年金を受け取る必要がないかもしれません。
年金の「繰下げ受給」とは、本来の受給開始年齢である65歳よりも受給のタイミングを繰下げる(=遅らせる)ことで、その分増額した年金を生涯受け取れるという方法です。1ヵ月繰下げるごとに、0.7%増額されます。
■60歳以降働かず、年金を5年繰下げる場合
たとえば、Aさんが年金を5年(60ヵ月)繰下げて70歳から受け取る場合、0.7%×60ヵ月で42%増額されます。すると、年216万円×42%=約307万円(月25万円強)となり、65歳から受給するよりも月7万円程度増額されます。
■60歳以降も勤務し、かつ年金を5年繰下げる場合
さらに、Aさんが60歳以降勤務した場合、65歳時点での年金は230万円となります。これを70歳まで5年間繰下げた場合、受給額は年230万円×42%=約327万円(月27万円程度)に。
加えて、65歳から70歳までの5年間の勤務で増える6万円が上乗せされることにより70歳以降は333万円(月28万円弱)になります。
このように、繰下げ受給を選択する場合も、60歳以降も勤務したほうが受給額が増えます。
ただし、先述した加給年金については、老齢厚生年金を繰り下げると加算の開始がその分遅くなったり、加算されなくなったりするケースがあるため注意が必要です。
なお、繰下げ受給については、ねんきん定期便にも記載されているため、チェックしてみましょう。
「60歳から年金暮らし」はもう古い…自分なりの受給開始時期を吟味して
AさんはFPの説明を受け、考えが変わったようです。「給与が下がるからと意地を張っていましたが、まだ体力も残っているし、働いてみようかな。リタイア後の人生も長くなるかもしれないですもんね」と、60歳以降も引き続き勤務することを決めました。
残念ながら、Aさんのお父様のころとは異なり、「60歳でリタイア、60歳から年金暮らし」という時代ではなくなりました。しかし、ここまでみてきたように、ねんきん定期便の見込額を見て少ないと思っても、増やす方法やチャンスはあります。
まずはご自身の「ねんきん定期便」を見て現状を確認し、不明点はFPをはじめとした専門家に相談しながら、それぞれに合ったプランを立ててみるといいでしょう。
五十嵐 義典
CFP
株式会社よこはまライフプランニング 代表取締役