蛋白質摂取不足にならない注意も必要

・筋肉を落とすと基礎代謝が落ち、血糖値が下がらなくなる

腎機能が悪い人は蛋白質を摂ってはいけない、と極端にとらえている人がいますが、これには注意が必要です。蛋白質は身体のなかでとくに大きな組織である筋肉の原料であり、身体の蛋白質の50%は筋肉、と言われています。つまり、体内に蛋白質がなくなれば、筋肉がなくなっていくのです。


筋肉がなくなると、基礎代謝が落ちてエネルギー消費がしにくくなり、痩せにくい身体になるといったさまざまな問題が起こります。蛋白質を摂らないことで生じる最大のメリットは、ダイエットで一挙に体重が落ちることです。ただ、これは筋肉が削げ落ちているだけです。「体重が落ちれば血糖がよくなると聞いていたのに、改善しません」と相談してくる人は、少なくありません。


じつは筋肉は、血糖を食べてくれるのですが、その筋肉がなくなれば、体重と同時に基礎代謝も落ちて、血糖値が下がらないのです。蛋白質はエネルギー代謝に関わっているので、ある程度摂取する必要があります。ところが、「腎機能の悪い人は、蛋白質を摂ってはいけない」と言われている人にとっては、パラドックスに陥ってしまう話なので、どうすればいいのかと悩んでしまうほど、難しいことなのです。


余談ですが、身体は血糖値を安定させる必要があるため、低血糖になると筋肉のなかにある血糖値を上げるためのセンサーが働きます。ですから、筋肉が少ないと低血糖を知らせるアラームが発動しなくなり、大変な事態に陥ることも。痩せた女性が低血糖の症状を訴えて相談に来ることも多いのですが、その場合、わたしは蛋白質の摂取を増やすようアドバイスしています。

・蛋白質不足は、心の健康にも影響している

蛋白質は、体内で分解されてアミノ酸になります。このアミノ酸は、心の健康に必要な栄養素です。神経伝達物質のアドレナリンは、必須アミノ酸の「フェニルアラニン」から生成されるため、アミノ酸が不足すると、集中力ややる気が低下してしまいます。また、「しあわせホルモン」と呼ばれるセロトニンは、必須アミノ酸の「トリプトファン」からつくられるため、アミノ酸が不足すると精神が不安定になり、抑うつとなって元気がなくなっていきます。


さらに、セロトニンからは「睡眠ホルモン」と呼ばれる「メラトニン」がつくられます。つまり、必須アミノ酸が不足すると、睡眠の質の低下につながってしまうのです。蛋白質が不足すると、筋肉やエネルギー代謝の低下だけでなく、心の健康にも大きく影響します。蛋白質の摂取がどれだけ重要か、わかっていただけるのではないでしょうか。


必須アミノ酸は、赤身肉や卵、牛乳、魚介類といった動物性蛋白質をはじめ、大豆や穀類などのさまざまな食品にも含まれています。通常の食事をしていれば不足することはないので、バランスよく、いろいろなものを食べることが大切です。


また、蛋白質は、酵素やホルモンなど身体の機能を調節する大切な役割も果たしているため、蛋白質が不足すると、免疫機能が低下して抵抗力が弱くなり、さまざまな病気にかかりやすくなります。日本人の死因の第1位はがんですが、80歳以上人の1位は肺炎です。蛋白質不足による免疫機能の低下も一因となっているのでしょう。
 

別府浩毅

医師