マイナス思考になることもありますよね。しかし、脳科学者の西剛志氏は著書『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』の中で、「恐怖学習と呼ばれる恐怖(痛み)を脳が認識してしまうことと関係がある」と言っています。一体どういうことでしょうか? その理由を、本書から紹介します。
絵を見るだけでネガティブな度合いがわかる
神経症傾向とは、5大性格ビッグファイブの中の一つの性格特性で、内向型とは全く異なるものです。神経症傾向が強い人は、脳の恐怖学習の中枢とも言われる扁桃体が活性化しやすいため、少しの恐怖がとても大きな恐怖に感じられてしまい、恐怖学習で苦手意識をつくりやすいことがわかっています。神経症傾向は、マイナスに反応しやすい性質のため、脳科学の世界ではこれは「ネガティビティ・バイアス」というふうにも表現されます。
「ネガティビティ・バイアス」ーー別名「悲観主義バイアス」と言われたりもしますが、これは、「注目バイアス」の一種で、マイナスなものにフォーカスしたくなってしまう脳のクセです。
上の図を見てください。これは円が欠けている図になりますが、あなたはどのくらい円が欠けていたら気になりますか? 実は、神経症傾向が高い人ほど「ネガティビティ・バイアス」が強いため、ほんのちょっと円が欠けているだけでも気になってしまいます。
一方、神経症傾向が低いと、円が少し欠けていてもそれほど気になりません。神経症傾向が高い人を調べたことがありますが、そのような人たちはミリ単位の部分が欠けていても、その部分ばかりが目に入ってきてしまいます。よくSNSの投稿に、100個の「いいね」がついても、1個の悪口が書かれていたら、そのことばかりが印象に残ってしまう人がいます。
これはネガティビティ・バイアスが強いからです。ただし、神経症傾向は完全に悪者かというと決してそうではありません。この神経症傾向は、本来は私たちが生き延びるためにつくられたものだからです。私たちは原始時代から、天敵の攻撃や、突然の嵐、自然災害など、さまざまなリスクに囲まれて生きてきました。
私たちの祖先は、リスクを回避するためにマイナスなことにフォーカスして、その困難を乗り越えてきました。飢き 饉きんが起きたとしても「これくらいだったら、大丈夫!」と楽観すぎる人は、死んでしまったかもしれません。ですので、神経症傾向は決してよくないものではなく、強すぎると問題があるだけです。
実際に科学界では、「健康的な神経症」(専門用語でHealthyNeuroticism)と呼ばれる人たちが注目されています。この人たちは、神経症傾向と誠実性が高い人で、喫煙や薬物使用のリスクが低くなり、炎症やガンなどを引き起こす炎症性サイトカインの値が低く、人生を通して健康的に過ごせるそうです。しかし、この神経症傾向が強すぎると、ある問題が起こります。
一部の「欠点」が自分の性格の「全て」であるかのように、錯覚してしまうのです。これによって、自分には「マイナスな部分」「ダメな部分」「嫌いな部分」しかない、いいところなんて1個もない、と考えてしまう傾向があるのです。本当は、丸い円全てがその人なのに、まるで、「欠けているところ」しか自分には存在しないかのように思えてしまうのです。
客観的には、とても明るく、はきはきと話せるのに、本人はその明るい自分に全く気がつかず、「暗い自分が本当に嫌いなんです」と悩み続ける……。なんてこともよくあります。あなたが「あなた」だと思っているものは、もしかしたら、円の欠けている部分に過ぎないのかもしれません。この神経症傾向が強すぎることは、過度なマイナス思考を形作っている大きな元凶となっています。
神経症傾向が大きすぎると、ビジネスだけでなく、恋愛、健康、身体能力、寿命、幸福度などあらゆる分野において、負の影響を及ぼします。仕事でがんばりすぎて、突然何もやる気が出なくなり、バーンアウトと呼ばれる状態になる人たちは、神経症傾向が高い人が多いようです。神経症傾向が高いことで、人見知りになったり、統合失調症になったり、後天的に痛みを学習しやすかったりするため、自分自身でマイナス思考を加速させてしまっていることもあります。
また、扁桃体がマイナスの感情を感知すると、「前帯状皮質」という場所が活性化することもわかっています。近年、この「前帯状皮質」は「別のあること」を体験したときに反応することがわかってきました。それは「身体的な痛みを感じたとき」に反応する場所と全く同じ部分だったのです。つまり、脳科学的に、人に拒絶されることは、ナイフで傷付けられた痛みと同じようなものだということ。
特に内向型の人が神経症傾向を持っていると、さらに深く考えてしまうために、より痛みを感じやすくなります。よく、失恋して落ち込んだ人が「心がズタズタになる」と表現しますが、あながち大袈裟ではなかったのです。
西剛志
脳科学者