ヒトの細胞を使った実験では?

この実験は動物細胞を用いずに行う、セルフリーとよばれる種類の実験ですが、細胞を用いた実験によっても評価を行いました。その結果が図表2です。
 

アセチル基量の測定 出典:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より抜粋
[図表2] アセチル基量の測定 出典:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より抜粋

この実験にはヒトの細胞を用いました。細胞には核という部分があります。核の中に遺伝子が格納されています。その遺伝子を安定させて格納する役割を持った物質でヒストンとよばれるタンパク質があります。このヒストンもアセチル化していて、遺伝子の安定化に強く寄与しています。

そこで、細胞にアルキルレゾルシノールやレスベラトロールを添加して培養した後、このヒストンのアセチル基の量を測定してみました。

[図表2]に示すように、アルキルレゾルシノールやレスベラトロールを添加しなかった無添加に比べ、アルキルレゾルシノールを添加したヒストンのアセチル基は減少していました。レスベラトロールを添加した場合も同じようにアセチル基は減少していました。

すなわち、アルキルレゾルシノールもレスベラトロールも、ヒストンの脱アセチル化が促進されたのです。レスベラトロールはセルフリーの実験では脱アセチル化活性が見られなかったのに、細胞では見られたことは、レスベラトロールがサーチュイン遺伝子の遺伝子発現量を増加し、サーチュイン自身の量を増やした結果だと思われます。

この[図表2]で、ヒストンのアセチル基量はアルキルレゾルシノールを添加した場合より、レスベラトロールを添加した場合のほうが減少していることが分かります。

オスとメスで寿命の延び方が違う?

それなら、アルキルレゾルシノールよりレスベラトロールのほうが、活性が強いのでしょうか? ところが、そうでもないのです。前述したようにレスベラトロールはさまざまなメタボリックシンドロームに対して強い効果を示します。

また、寿命を延ばす効果もショウジョウバエなどで確認されています。それらの評価法を用いて、アルキルレゾルシノールとレスベラトロールと同じ濃度で比較してみると、いずれもレスベラトロールよりもアルキルレゾルシノールのほうが効果が強いことが確認されました。それらの評価法のうち、ショウジョウバエを用いた寿命延長効果を示します。

ショウジョウバエを用いた寿命延長効果 出典:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より抜粋
[図表3] ショウジョウバエを用いた寿命延長効果 出典:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』(総合法令出版)より抜粋

[図表3]はショウジョウバエの生存率を縦軸に、横軸には日数を示しています。ショウジョウバエの餌に何も混ぜない群を対照群として、餌にアルキルレゾルシノールを混ぜた群、レスベラトロールを餌に混ぜた群の3群で比較しました。もともと各群200匹で飼育を始め、その数字を1として表記しています。ハエは徐々に死に始め、普通食の対照群は70日後には全てのハエが死にました。

一方、アルキルレゾルシノールとレスベラトロールを混ぜた餌を食べた群では、それぞれ生存曲線が右にシフトし、寿命が延びています。

アルキルレゾルシノールでは、平均寿命がおよそ10日間程度延びています。この寿命延長はヒトに換算すると10年から15年程度に匹敵します。レスベラトロールの場合も寿命延長は見られますが、その平均寿命の延長は8日程度に留まりました。この結果はいずれもオスの場合です。

メスの場合、アルキルレゾルシノールの寿命延長はオスの場合と同程度ですが、メスのレスベラトロールにおける生存曲線は、対照と同様で寿命延長が見られないのです。これは一体、どういうわけでしょうか?

その答えの前にもう少し図表3の説明を続けます。今までの説明は図表3の上側に示したグラフ正常ハエのオスとメスについてでしたが、下側のグラフはサーチュインの遺伝子がもともと欠損しているハエで同じような実験を行った結果を示しています。

こちらの場合は対照に比べ、アルキルレゾルシノールもレスベラトロールも寿命が延びていません。すなわち、ハエの寿命が伸びる現象にはサーチュインが関係していることを証明した証拠です。

メスの寿命は延びない?

レスベラトロールによる寿命延長がメスでは観察されないことは、我々の研究結果以外に別のグループによる論文でも確認済みです。ヒトの細胞を用いた実験では、ヒストンの脱アセチル化の程度を比較するとアルキルレゾルシノールよりレスベラトロールのほうがより強く反応していました。

それなのに、なぜアルキルレゾルシノールのほうが寿命が延びるのでしょうか? 理由ははっきりとは分かっていませんが、ただいたずらに強く脱アセチル化を進めればいいということではなく、ベストな脱アセチル化の程度がありそうです。

レスベラトロールは遺伝子発現を促進させ、その結果サーチュインの量を増やすことで脱アセチル化を進めています。一方でアルキルレゾルシノールの場合、遺伝子発現の促進はせず、サーチュインの量は変わらずに、脱アセチル化の反応速度を上げることで脱アセチル化を進め、ベストな状況に至るのだと思われます。

遺伝子の発現はそのメカニズムにおいて別の要素も関係することがオスとメスでの違いを導いた可能性があります。

<まとめ>

・ブドウ、ザクロ、食用菊より期待できるアルキルレゾルシノール

・アルキルレゾルシノールは小麦やライ麦などの穀類の外皮に多く含まれている

今井 伸二郎
医学博士
代謝機能研究所所長/東京工科大学名誉教授/藤田医科大学客員教授