教員の仕事の過酷さが明るみになり、教師不足などのニュースが頻繁に取り上げられている日本。実は、日本と同様の問題がフランスでも起きているといいます。フランス教育省は2019年、初めて教育現場での教員の自殺者数を発表しましたが、その数は1年間で58人。つまり毎週1人が自殺したことになり、フランスでもショッキングなニュースとして報道されました。今回は、日本在住のフランス人ジャーナリスト・西村カリン氏の著書『フランス人記者、日本の学校に驚く』(大和書房)から一部抜粋して、フランスにおける教師問題について解説します。
フランスの先生もつらいよ―麻薬、暴力、モンスターペアレント
もう1つ、フランスで教師という職業が敬遠される理由に〝話を聞かない子ども〟の存在がある。暴力、麻薬、犯罪など、状況はどんどん悪化している。
2020―2021年の調査によると、小学校の校長先生の44%が子どもから暴言を受け、5%は暴力を受けた。また、「SIVIS(学校の安全に関する情報収集と監視・警告をするシステム)」という国の調査によると、教師に対する暴言や暴力は小学校で児童1,000人あたり3件、中学校で1,000人あたり12.5件、高校総合クラスでは5.1件、専門クラスでは20件となっている。
日本の先生も大変だが、教師への暴言や暴力は小学校で1,000人当たり0.8件、中学校で1.0件、高校で0.1件と、フランスと比べたら落ち着いた環境といえる。
日本人がパリとその郊外の一部の小学校や中学校の教室を見たら驚くだろう。フランスの学校は自由度が高いぶん、個人がそれぞれ意見を主張する。静かに授業を聞く生徒はいるけれど、過半数が授業を聞かないクラスもある。モンスターペアレンツも多い。
わたしが子どもの頃は、先生が子どもを叱ったら、親は子どもを注意したものだ。学校でヘンなことをしたら先生が叱るのは当然だと思っていたし、「もっと叱ってほしい」と思う親も多かった。ところが今は「自分の子が正しくて学校が間違っている」という前提になり、「なぜウチの子を叱るんですか!」と先生に詰め寄る。
また、教育格差も広がっている。フランスの中学校では、42%の生徒が複数の学年が混在したクラスで学んでいる。先生は年齢差のある生徒に同時に教えるため、理解している生徒とそうでない生徒が生まれ、教育環境として良好とはいえない。
ドキュメンタリー映画『パリ20区、僕たちのクラス』は、フランスの公立学校の現実とそこで教える先生の葛藤を描いたものだ。ぜひ観てほしい。
2022年にはこんな事件があった。ある生徒が教室で先生を執拗に挑発し、たまりかねた先生が手を出したところを動画に撮ってインターネットに投稿したのだ。これを機に、教室での出来事が公開されたらたまらないと先生たちは口をつぐんでしまった。
生徒から攻撃されるだけでなく、教頭らからも「問題を起こすのはあなたのせいだ」と非難され、泣き寝入りするしかない立場に追い込まれた。
そんなとき、1人の先生が「わたしの身にはこんなことが起きている」とX(旧ツイッター)で告発した。すると、「わたしも」「わたしも」と数千人の先生が声を上げ始めた。先生版「#metoo」運動へと発展したのだ。
ただ、いかなる理由があろうと他者に手を出すのは罪だから、裁判が起きたら、先生が懲役判決を受けるリスクもある。
西村カリン
ジャーナリスト