昨今はSNSの普及により「他人との適当な距離の取り方がわからない」という人が増えているようです。人間関係をうまく構築しようと意識するあまり、ストレスが大きくなることも。本記事では明治大学文学部教授の齋藤孝氏が、心地よい人間関係を構築するコツを解説します。
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お手本にしたい…大谷翔平選手と栗山英樹監督の距離感
2023年の春、2023 WORLD BASEBALL CLASSICで、侍ジャパンすなわち日本チームは、決勝でアメリカを3対2で下し、優勝を勝ち取りました。
この決勝戦でひと際目立った活躍をした投手・大谷翔平選手と、チームを率いた栗山英樹監督との間には、わかりやすいやりとりはありませんでした。
大谷選手の天邪鬼な性質を見抜いていた栗山監督
九回のマウンドに大谷選手が上がる意思があるか、所属している球団ロサンゼルス・エンゼルスと登板の話ができているかどうか、栗山監督は通訳を介して、状況を確認しています。
大谷選手自身からは、決勝で投げるという言葉はありません。二人の間には、親しい中にも距離がありますが、しかしこのシナリオは一分たらずで決まりました。後に、栗山監督はこう語っています。
「オレは翔平を決勝で行かせようとずっと思っていた。でもアイツは天邪鬼だから、オレが先に『投げろ』と言ったら絶対に投げないんだよね。だから翔平のほうから投げたいと言い出すのを待っていたわけ」
本人が勝ちたくなってスイッチが入ったら自分から行く性格だと、栗山監督は大谷選手の性質を見抜いていました。
「『身体の状態次第』ってことは投げるってことでしょ」
二人のやりとりは簡単ですが、気持ちが高まってきたところでポンと背中を押すという、あっさりとした関係性が窺えます。監督からの要求もずけずけしたものでなく、優勝が決まったあとに写真を一緒に撮った時にも、こう話しかけているだけです。
「翔平、ありがとな」 「これがオレの最後のユニフォームだよ」ちょっと感傷的になるシーンのはずですが、その時も大谷選手は「何、言っちゃってんすか。3年後、やればいいじゃないですか」と軽く応じます。言葉数は少なく、押しつけのない会話ですが、二人が強い信頼関係で結ばれていることが伝わるエピソードです。