国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査」によると、注文住宅(新築)購入者のうち約8割以上が「住宅ローン」を利用しているそうです。住宅ローン利用者のなかには、できれば早く返してしまいたいと「繰り上げ返済」を検討、実行している人も多いと思いますが、繰り上げ返済には思わぬ落とし穴があります。事例をもとに、住宅ローン繰り上げ返済の注意点と対策をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。
悔しすぎます…世帯年収1,600万円の50代共働き夫婦、54歳妻が「住宅ローンの繰り上げ返済」を大後悔。“自慢のタワマン”を泣く泣く売却したワケ【FPの助言】
「家計の資金繰り表」で“想定外”の事態に備える
真由美さんはその後、タワマン売却代金で中古のマンションを購入し、余った残額は現金として残し、新たな生活を始めることとなりました。
タワマンを売却してしまったことは残念でしたが、母子2人で再出発するために家計状況をクリアにできた状態といえます。
当面は、遺族年金として月に15万円ほど受給できますが、それだけでは家計は赤字になってしまうでしょう。また、子が18歳になると遺族年金の支給額は減ってしまいます。真由美さんはパートを探すことにしたそうです。
家計簿の進化版「家計の資金繰り表」を作って家計収支を“見える化”
これからのマネープランに必要なのは、家計簿から1歩進んだ「家計の資金繰り表」を作ることです。
企業は、売り上げがあって利益が見込まれていたとしても、入金や支払いのタイミングしだいでは現金や預金残高不足になってしまうことがあり得ます。そのようなことがないよう資金繰りを正確に把握しておく必要がありますが、これは家計においても同様です。
資金繰り表作成の目的は、毎月の収入と支出を“見える化”することです。
支出は毎月の固定支出だけでなく、税金や保険料など年に数回、年に1回という支払いも書き出し、記載漏れのないように作成してみましょう。こうすることで、各支出項目について予算が立てられるので、使い過ぎにもすぐに気づき、早め早めに修正していくことが可能です。
現在の資金繰りが把握できたら、ライフイベント、教育費、老後の生活費、予想される根金額なども書き出してみましょう。これからの未来についても、早いうちから把握し可視化しておくことが大切です。
そのうえで、いまから準備すべき金額はいくらなのか逆算して、パートでどのくらい収入を得る必要があるのか考えていきましょう。
ローンを組む際は対策をとったうえで「余力」を残す
長年続いたデフレ時代、資金に余裕があると積極的に住宅ローンの繰り上げ返済する人も少なくありませんでした。借金している状態が落ち着かない、という日本人の国民性もあるかもしれません。
しかし、「繰り上げ返済=現金を減らすこと」です。繰り上げ返済ばかりに注力し、想定外の出来事に対応できなくなってしまっては本末転倒です。
最近は物価の上昇が顕著で、インフレへの転換期であるといわれるようになりました。インフレ下になると住宅ローンの金利が増え、ますます繰り上げ返済したほうがいいようにも思えますが、金利が高いゆえに運用して金融資産を増やすほうが効率的な場合もあります。
また、住宅ローンを抱えていても手元に現金があれば、想定外の出来事に対応しやすくなります。
住宅ローンを借り入れる際は、無理なく返済できる融資額を設定したうえで、可能であれば急な出費にも対応できるだけの余力を残しつつ、家計の資金繰りを可視化するようにしましょう。
石川 亜希子
AFP