国土交通省の「令和4年度住宅市場動向調査」によると、注文住宅(新築)購入者のうち約8割以上が「住宅ローン」を利用しているそうです。住宅ローン利用者のなかには、できれば早く返してしまいたいと「繰り上げ返済」を検討、実行している人も多いと思いますが、繰り上げ返済には思わぬ落とし穴があります。事例をもとに、住宅ローン繰り上げ返済の注意点と対策をみていきましょう。石川亜希子FPが解説します。
悔しすぎます…世帯年収1,600万円の50代共働き夫婦、54歳妻が「住宅ローンの繰り上げ返済」を大後悔。“自慢のタワマン”を泣く泣く売却したワケ【FPの助言】
タワマン購入も…10年で泣く泣く売却した“想定外”の理由
誠さん(仮名・57歳)、真由美さん(仮名・54歳)夫婦は、都内に住む共働き夫婦です。
2人は約10年前に、5,000万円のタワーマンションを購入しました。当時、年収は誠さんが1,200万円、真由美さんが400万円と、世帯年収に直すと1,600万円ほどありますした。購入時はもちろん住宅ローンを利用しましたが、ライフプランを鑑み、誠さん単独で4,000万円のローンを組みました。
タワマンを購入した当時、娘はまだ6歳。本格的に教育費がかかってくる前になるべく住宅ローンの残債を減らしたいと考えた2人は、積極的に「繰り上げ返済」を行っていました。
それから10年のあいだ、ひとり娘とともに家族3人、憧れのタワマンで理想的な生活を送っていたのですが……。
一家に不幸が訪れたのは、ほんの数ヵ月前のことです。誠さんが出張先のホテルで倒れ、そのまま亡くなってしまったのです。心筋梗塞でした。
真由美さんは、あまりに突然の出来事に茫然自失となったものの、なんとか葬儀などを終え、そして、高校生になった娘と2人きりの生活になります。「あ、そうだ、夫はもういないんだった……」日常生活でふとそう感じるたびに、悲しみに暮れる日々が続きました。
しかし、悲しんでばかりもいられません。住宅ローンの残債約1,500万円については、「団体信用生命保険」が適用されたため支払う必要はなくなりましたが、預金口座には200万円しか残されていません。
積極的に繰り上げ返済していたことに加え、中学受験を経て中高一貫校に通う長女の教育費がかかっていたこと、そして、その中学受験に寄り添うため数年前に真由美さんが仕事を辞め専業主婦になっていたことが、預金残高が少なくなっている主な原因です。
遺族年金もあることから、すぐに生活に困るわけではありませんが、これから長女は大学受験を控えています。塾代や大学の学費がかかるほか、住まいであるタワマンの維持費も馬鹿になりません。
このままタワマンに住み続けたとして、どこかで現金が足りなくなってしまう可能性が高い状況です。
「繰り上げ返済していなければ、その分は現金として残っていたってことですよね……たらればであることは自覚していますが、それにしてもあんまりじゃないですか。悔しすぎます」。
真由美さんは納得がいかないようでしたが、こんな事態になることは誰しも予想できませんでした。親族とも相談し、真由美さんは熟考の末、断腸の思いで家族の思い出が詰まった自慢のタワマンを泣く泣く売却することになったのでした。