私たちの生活をより豊かなものに変える技術は、食の分野にも大きな変化をもたらしています。たとえば最新の科学技術を駆使して開発した「あたらない牡蠣」は、従来の牡蠣とは異なり、食べても食あたりになる心配がありません。最新技術を食の領域に取り入れたフードテックは、食にまつわるさまざまな課題を解決する可能性を秘めています。そこで、今回はフードテックの最新トレンドについて紹介するとともに、フードテックの発展によって今後私たちの食事情がどのように変わっていくのかを考察します。
「あたらない牡蠣」を始めとした美味しく安全に食べる幸せ…これまでの食事情が激変!? フードテック・最新トレンド

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

これまでの常識を覆す「あたらない牡蠣」とは

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

株式会社ゼネラル・オイスターは、世界初の牡蠣の完全陸上養殖に成功。食べてもあたる心配のない「エイスシーオイスター2.0」を開発しました。牡蠣はエサとなる植物性プランクトンを取り込むため、1時間におよそ20Lもの海水を吸って吐き出しています。

 

その際に産業排水や生活排水に含まれるノロウイルスなど、人に有害なウイルスも一緒に取り込んでしまうことがあります。そのような牡蠣を生で食べることで、腹痛や吐き気などの食中毒を起こすことがあるのです。

 

そこで着目したのが、海洋深層水です。海洋深層水とは水深200mより深い場所の海水のことで、人間に害がある菌やウイルスがほとんど存在しません。エイスシーオイスター2.0は、海洋深層水をくみ上げ、海には一度も入れずに稚貝から成貝になるまで海洋深層水のなかで牡蠣を養殖することに成功しました。ウイルスのない環境で育ったため、食べてもあたる心配がないのです。

 

ただし、海洋深層水には牡蠣のエサとなる植物性プランクトンもいないため、完全陸上養殖にはエサ代のコストがかかることが課題でもありました。株式会社ゼネラル・オイスターは東京大学との共同研究でプランクトンの大量培養に成功したことで、コストの大幅カットにも成功しています。

 

このように完全に陸上で養殖したエイスシーオイスター2.0は、見た目は普通の牡蠣と変わらないものの、味はより甘さが濃縮されて栄養価が高いのが特徴。ぷりぷりとした牡蠣ならではの食感も楽しめ、噛んだ瞬間口のなかに旨みが広がります。

 

また、通常牡蠣の味は採れた海の状況や山の養分といったその土地固有の条件によって決まりますが、エイスシーオイスター2.0の場合は、与えるエサによって風味を自在に変えられるというメリットもあります。

多様な食のあり方を許容する「プラントベースメニュー」や「培養肉」

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

植物由来の原材料でできた肉などの代替食品の開発も進んでいます。

 

博多名物の博多豚骨ラーメンがウリの大手ラーメンチェーンの一風堂では、2021年から植物由来の原材料を使用したプラントベースのメニューの提供を開始。コク深い豆乳スープやトリュフオイルなどの植物由来の原材料で、一風堂の看板メニューである「赤丸」「白丸」の濃厚な豚骨風味を再現しています。

 

また、麺やトッピングにもこだわりがあります。通常一風堂の麺には卵を使用していますが、プラントベースのラーメンには一切卵を使用していません。さらに小麦ではなく、より栄養価の高い全粒粉を使用することで健康にも配慮。トッピングのチャーシューも試作を重ね、触感や味を極力本物に近づけています。

 

一風堂がここまでプラントベースラーメンの開発にこだわった理由は、宗教上や健康上の理由、ヴィーガンなどのさまざまな理由から動物由来の食べ物が食べられない人たちにも一風堂の味を楽しんでもらいたいという想いからでした。

 

このような企業の熱意から生まれたプラントベースラーメンは多くの反響を呼び、提供開始当初は限られた店舗でしか販売されていなかったものの、現在はオフィシャルオンラインストアから自宅で気軽に楽しめる乾麺タイプの商品も販売されています。

 

また、植物由来の原材料などから作る代替肉のほかにも、動物から抽出した細胞を組織培養して作る培養肉の研究も進められています。大手食品メーカーの日清食品グループは、東京大学と共同で世界初のサイコロステーキ状の培養肉の実用化を目指した研究に取り組んでいますが、その過程で「食べられる培養肉」の作製に日本で初めて成功しました。

 

実は、これまでの培養肉は食用ではない研究用素材を用いることが多く、ほとんどが食べられませんでした。そこで日清食品グループは食べられる培養肉を作成するにあたり、「食用可能な素材のみを使用する」「研究過程において食べられる制度を整える」という2つの課題に挑戦。見事課題を克服し、2022年3月に研究関係者による初めての試食を実現しました。

 

初めて試食した培養肉は肉そのものの味からはまだ遠いものの、食品としての確かな噛み応えがあり、あっさりとした旨みを感じることができたと報告されています。試食ができるようになったことで、味や香り、食感など、美味しさの再現が今後大きく進展することが期待できるでしょう。

 

徹底された衛生管理のもとで作られた培養肉は世界的な食糧不足の解決に役立つだけでなく、食中毒のリスクを大幅に低減するというメリットもあります。日清食品グループでは、2024年度中に幅7cm×奥行7cm×厚さ2cmで、約100gの「培養ステーキ肉」の基礎技術確立を目指して研究を進めています。