同じ業種であっても、勤める会社が大企業か、中小企業かによって賃金には大きな差があります。では、定年まで勤めるとどれほどの差が生じるのでしょうか? 本記事では、Bさんの事例とともに、大企業と中小企業の賃金格差について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
年収640万円だった62歳・元大卒会社員、定年後「満足の会社員人生だった」としんみりも…20年ぶり再会の〈大企業組同級生〉の“懐事情”に猛烈ジェラシー【FPの助言】
同窓会に訪れた2人
Bさんは、大学時代、Aさんと同じゼミに所属していました。専攻が同じだったこともあり、卒業後の志望業界が被り、当時参加していた企業説明会の会場でばったりと会うことが度々ありました。そんなAさんとBさんは、業界最大手の企業であるX社への採用面接を受け、2人とも内定をもらいました。Aさんは迷わずX社への入社を決意します。
しかし、Bさんは同時期に受けていた中小企業であるY社からも内定をもらって迷います。Y社は規模こそ小さいですが、Yさんのような志の高い若手が多く集まり、なによりも社長が非常に魅力的で、Bさんは大きな影響を受けます。こんな人になりたい、ここならやりたいことが実現できる、そのためにはこの会社へ入るしかない、とX社の内定を蹴ってY社へ入社を決めました。両親や同級生からも反対されましたが、当時のBさんの決意は固かったのです。
会社員としての生活がスタート
Y社は確かに成長過程の会社であったため、大きく業績を伸ばした年もありましたが、伸び悩んだ時期も少なくはありませんでした。結局、サラリーマン生活の後期には年収670万円程度で安定しましたが、懸命に仕事に打ち込み、妻とともに2人の子供を育てあげるために必死で生きてきたため、Aさんのことなど思い出す機会はありませんでした。
そこへ届いた同窓会の通知。社会人となってからはまったく会うことはなかった学生時代の仲間たちを思い出し、同窓会が楽しみになりました。
生涯賃金の差は「1億円」
Bさんが同窓会に少し遅れて行くと、なにやら賑わっています。輪の中心にいるのはAさんです。
Aさんの有名大企業で順風満帆に過ごしてきた話を聞くと、同級生は「そりゃすげーな」ともてはやします。身につけたブランド品を見せびらかし、定年祝いに自分には車、妻には海外旅行とカバンをプレゼントしてやったなどと自慢します。ほかにも大企業へ行った同級生たちは、身なりや話の内容など、やはり懐に余裕のある様子です。
Bさんはやりがいのある仕事をしてきたことに誇りを持っていましたし、満足した会社員人生だったと思っていましたが、Aさんのように羨望の的となるようなネタは持ち合わせておらず、ごく平凡な話になってしまいがちです。
調子に乗ったAさんは、さらに現役時代の給与の額まで赤裸々に話してくれました。聞いていると、その差が歴然とします。Bさん自身は裕福とまではいえませんが、経済的に困ることはなく、働いた分の対価はもらえていたと満足していましたが、「大企業と比べると生涯賃金で1億円も違っていたなんて……。妻にももっと楽をさせてやれたかもしれない」と子育てと仕事を両立し、何年も同じカバンを大切に使い続け、いつもくたびれた様子の妻の姿を思い浮かべ、やりきれない思いを感じました。
Aさんは、Bさんに「だから中小企業より大企業のほうがいいと助言してやったのに」と笑いました。セレブ的なAさんのお財布事情に猛烈にジェラシーを覚えたのはいうまでもありません。