国民の権利だが…偏見が多く、必要な人に届いていない可能性も

生活保護は、憲法で保障されている国民の権利です。さまざまな理由により生活に困窮する事態は誰にでも起こり得ることで、必要な場合はこの“セーフティネット”を迷わず利用すべきですが、さまざまな偏見があることも事実です。

実際、日本では、生活保護を受給している割合は人口のわずか1.7%程度にとどまっています。

かつて、「生活保護の不正受給」がメディアで騒がれたことがありましたが、不正受給にいたってはそのうちの1~2%です。もちろん、悪質な不正受給に対しては厳しく対応すべきですが、そういうケースはごくわずかで、むしろ、本当に必要な人に届いていない可能性のほうが高いといえます。

【FPが提案】Bさんが徐々に自立するための「3つ」の手段

では、生活保護を受給しながら、徐々に自立していくにはなにから始めたらよいのでしょうか。筆者はA夫妻に、娘さんと相談するよう下記の3つの対策を提案しました。

1.家計管理の徹底

まずは、家計管理を徹底する必要があるでしょう。自立後は、免除になっている税金や保険料、医療費などについても、自分で払っていく必要があります。

いまもらっている金額だけでなく、こうした費用も含めて、どのくらいの収入が必要になるのか把握しましょう。また、自治体によっては、家計管理の提案や支援をしてくれるところもあります。ぜひ利用するといいでしょう。

2.貯金

また、家計管理しながら、貯金していくことも大切です。「生活するのに最低限必要な額をもらっているのだから、貯金してはいけないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、生活保護費は貯金することもできます。

貯金がないままでは自立が難しくなりますから、少額からでも始めるとよいでしょう。

ただし、貯金額があまりに多額になると生活保護が打ち切りになる場合もあります。生活保護を受給しているあいだは、年に数回程度ケースワーカーによる訪問調査が行われますので、その際に相談するとよいでしょう。

3.「生業扶助」を利用する

また、生活保護の扶助のうち、前述の「生業扶助」を申請することもできます。生業扶助には、職業訓練費用の支援、専門学校の学費、資格取得のための講習費用などが含まれます。自分の能力を活かし、より広い意味での自立を支援するものです。こちらもケースワーカーと相談のうえ、必要であれば利用するとよいでしょう。

生活に困窮したときは「ためらわずに」行政を頼ろう

後日、A夫妻から筆者に連絡がありました。

「娘に連絡したところ、『扶助については知らなかった。福祉や保育の仕事に興味があるから、ケースワーカーさんと相談してみる。教えてくれてありがとう』と言われました。娘に対しては助けてあげられない罪悪感がありましたが、少しだけほっとしています。ありがとうございました」

BさんもA夫婦も、これからの暮らしに対して少しだけ前向きになったようでした。

生活保護の申請は、憲法で認められている国民の権利です。生活に困窮したときは、ためらわずに行政を頼りましょう。

そして、だんだんと生活が落ち着いたら、その先のことを考えていくことも大切です。1人で考えていると視野が狭くなりがちですから、ご家族やケースワーカーなどに相談しながら、1歩ずつ自立の道を探っていきましょう。

石川 亜希子
AFP