60代の会社員は、退職するタイミングによってもらえるお金に差があることをご存じでしょうか。役職定年後、関連会社で働くAさん64歳の事例をもとに、「失業保険」と「高年齢求職者給付金」の特徴と違いについて、牧野FP事務所の牧野寿和CFPが解説します。
親父、もう辞めれば?…年収380万円の64歳“窓際サラリーマン”、33歳長男のひと言に激怒→感謝して「定年直前」に退職した理由【CFPの助言】
退職が65歳以降の場合「高年齢求職者給付金」を受け取れるが…
65歳以降に退職し再就職を目指す場合は「高年齢求職者給付金」が受給可能
一方、65歳で定年退職したあとに求職活動をすると、失業保険は支給されませんが、次の3つの条件を満たせば、「高年齢求職者給付金」が支給されます。
・65歳以上(誕生日の前日から65歳とカウント)
・失業している
・退職日以前1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して合計6ヵ月以上
雇用保険加入期間が1年以上なら50日分、1年未満なら30日分が支給されます。Aさんは20年以上加入しており、「賃金日額」は5,046円ですので、Aさんの場合50日分の高年齢求職者給付金が支給されます。金額は25万2,300円です。
受給するには、失業保険の場合と同様、ハローワークに離職票を提出して求職の申し込みをする必要があります。その後7日間の待機期間ののち支給されますが、失業給付とは違い一括で受給することが可能です。
なお、Aさんは65歳以降夫婦で316万円(月額26万円)、67歳からは361万円(月額30万円)の老齢厚生年金が受給できます。この年金受給額も考慮して退職時期を決めることも大切です。
※ 誕生日の65歳前々日までに離職(退職)して、65歳になってから、ハローワークに離職票を提出して求職しても、失業保険と老齢厚生・老齢基礎年金ともに受給は可能。
Aさんは、「1ヵ月、もっと言うと2~3日でこんなにもらえる金額が違うんですか……息子の言うとおり、64歳11ヵ月までに退職したいと思います。私としても正直、ローンさえなければ1日でも早く辞めたいと思っていたところですし、願ったり叶ったりです」と心境を吐露。さらに、「息子にも感謝しないといけませんね」と、少し照れながら話し、その日は帰られました。
計画どおり64歳11ヵ月で退職したAさん…再就職に意欲満々
それから半年ほど経ったころ、筆者の事務所にAさんが訪ねてきました。聞けば、ハローワークの帰りだといいます。Aさんは計画どおり、64歳11ヵ月で(正確には65歳の誕生日の3日前)に退職したそうです。
C社の経理担当者は「初めてのケースだ」と言っていたそうですが、就業規則を見ながら、給与は日割りで、退職金もほぼ給与1ヵ月分支給してもらえたそうです。
Aさんは、「邪険にしたC社の社員の鼻を明かそうと、本気で就職先を探している」と、やる気に満ち溢れた表情で話してくれました。
失業保険や公的年金の制度にしても、何度も同じ手続きをするものではないことから、あとから「知らずに損をした」とならないために、制度を理解することが必要です。ときには専門家に助言を求めながら、最適な制度活用をしたいものです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員