いつまでも健康な脳でいたいですよね。そのためには、食べ物も関係があるのではないかと思いますよね。脳神経内科医の米山公啓氏の著書『医師が教える元気脳の作り方』によると、脳の健康と食べ物はあまり関係がないそうです。本書からその理由を紹介します。
脳にいい食べ物
患者さんから「このサプリどうですかね。娘が買ってくれたんで、付き合いで摂っているんですけど」というような質問をよくされます。親の健康を心配して、サプリメントを娘さんが送ってくる話はよく聞きます。私はそれより、毎週親に会いにいくほうがよほど親の脳を活性化できるように思います。「まあ、薬とは違うから、いいんじゃないですか」と曖昧な返事で終わってしまいます。
食べ物と健康は永遠のテーマのように思います。薬など飲まずに、食べ物で病気が治り、予防できればいいのですが、なかなかそう簡単にはいきません。ある限られた病気のように、何かが欠乏することで発症するなら、その栄養素を含んだものを摂ればいいのですが、脳の病気ではそう簡単にはいかないのです。
というのも、口から食べた栄養素が、脳に簡単に入っていかないのです。脳の中には、血液脳関門と呼ばれるものがあります。脳にあるゲートです。ゲートと言っても開閉するわけではなく、実際には動脈の内膜と呼ばれる部分が、脳の組織へ血液中のいろいろな物質を通さないようにする役割をしています。
というのも、例えばいったん脳の中に細菌が入ってしまうと、それに抵抗する白血球などが脳のまわりを満たしている脳髄液にはないので、一気に感染が広まってしまいます。まさに最後の砦として存在するのが、この血液脳関門なのです。そのために、口から入った物質は、小腸で吸収されても、一部の限られたものしか脳には到達しないようになっているわけです。
となると、薬がなかなか脳へ届かないことにもなってしまいます。脳の病気では、新薬開発の時点で、脳へいかに到達させるかが重要なことになってくるわけです。脳にいい食べ物がよく話題になります。これを食べれば頭がよくなるとか、脳を元気にするといった食べ物が紹介されます。実は、動物実験などで脳に効果があるとしても、それは直接脳に働かせた場合であり、口から食べてもそうそう簡単には脳までいかないのが現実です。
足りなくなると脳の機能の低下が起きるビタミンB1などは、よほど偏った食事をしていない限り欠乏症にはなりません。脳に必要なビタミンであっても、それをたくさん摂れば脳の機能がアップするというわけでもないのです。テレビ番組的には、豚肉にビタミンB1が多く含まれるので、脳にいいでしょうという説明をしてしまいますが、そんな簡単な話ではないことは前述した通りです。
私がテレビ出演を辞めるようになったのも、わかりやすくするための台本通りの発言をしなければいけないことが多く、芸能人を盛り上げるための存在のように思えてきたからです。テレビ出演し始めの頃は、有名になった気がしてうれしいものですが、次第にばかばかしくなっていきます。だから私の知り合いの医者も、だんだんテレビに出なくなっています。
イチョウ葉エキスというものが、記憶力をアップさせ、脳の機能を高めるとして、日本ではサプリメントとして使われてきました。海外での最近の研究では、その効果は否定されていますが、日本ではなぜか機能性表示食品として認められて、サプリメントとして盛んに売られています。今のところ、特定の物を食べると脳の機能がよくなるということはありません。
重要なことはむしろ脳の血管を若く保つことでしょう。つまり動脈硬化が進まないように、血圧、コレステロール、血糖値を基準値にしておくことが重要です。もちろん抗酸化物質としてのビタミンCやビタミンEを摂るために、野菜を多く摂ること自体はいいのですが、それが直接脳に影響するというわけではありません。あくまで細胞や遺伝子に悪影響のある過酸化物質を減らすために必要なのです。健康には近道はなく、従来から言われていることをきっちり守っていくことが基本でしょう。それは脳にとっても同じことなのです。
米山公啓
脳神経内科医