性格とストレス

私の友人となると、やはり医局にいた仲間ということになります。開業医というのは狭い世界にいて、なかなか医療関係者以外の人間関係が作れないものです。私は作家業を30年くらいやってきたので、医療以外のいろいろな世界を見てきました。だから仲間の医者よりは、広い人間関係を持てていると思っています。


というのも、昔の医局の仲間、ほとんど開業医になっていますが、年に数回会うとき、そこでの話は医療関係以外の話にはまずならないのです。ストレス回避の一番簡単な方法は、話をする、あるいは愚痴を言うことです。つまり愚痴を言えたり、本音を語れる仲間をどれだけ持っているかで、ストレス発散ができるかどうかになるのです。


医者の仲間では、自分の子供を医者にしたこと、インフルエンザワクチンをいくらで打っているとか、昔の教授は今何をしているとか、あくまで医療がらみの話になります。新しい趣味を始めて、こんな面白い経験をしたとか、今こんな音楽を聴いているとか、なかなか趣味を徹底的にやっている医者の仲間は少ないのです。


だから、会っても新しい情報を手に入れることが少なく、私にとっては面白くないのです。医者は自分の子供を医者にすることが多いのですが、医者になれば、収入も増えて社会的に安定していると信じているからではないでしょうか。


ところが、勤務医で定年を迎えると、次の就職先を探すことが大変な時代になってきています。高校の同級生で、自分より成績の悪かった人が、大手の企業に就職して、同じように定年を迎えたとき、大きな逆転が起こることを、医者のほとんどはわかっていません。大手企業で出世しなくて定年になったとしても、企業年金、退職金があり、完全にリタイアしても優雅な老後を過ごせるのです。


ところが勤務医は、病院からの退職金は驚くほど少なく、年金も特別に多いわけではありません。結局、どこかの病院で働き続けるしかないのです。開業医に定年はありませんが、退職金はありません。あくまで健康であれば、70歳を過ぎても働くしかありません。優雅な老後というものを、ほとんどの開業医は考えません。定年がないので老後の計画を考えることはないのです。


仲間と話していても、そんな心配をしている連中はいないのです。私立の医学部へいけば、1人最低5000万円はかかります。だから開業医は稼ぐことはできますが、子供を私立医大へいかせれば、決して優雅な老後はなく、働き続けるしかないのです。


長い人生の計画などまったく考えてもいません。本当は医者仲間と会ったとき、そんな話をするべきでしょうが、目先の話で終わってしまうのです。会話でストレス回避をするには、どうも同僚やもとの研究仲間ではだめなようです。本音や愚痴を言える友人を、どれだけ持っているかが重要なのです。


一般的に神経症傾向が強い人は認知症のリスクが上がると考えられています。なぜでしょうか。神経症傾向であるとストレスを受けやすくなり、長期にストレスを感じやすくなるので認知症の発症率が上がってしまうのです。神経症傾向の特徴として、傷つきやすさや自意識の強さというものがあります。それは、人との交流を回避しがちになり、人間関係も希薄になり社会的に孤立しやすくなります。


そのために、うまくストレス回避ができないのです。友人の少ないことが、脳に悪影響を及ぼすのです。さらに認知症を発症していても、周囲の人に、気が付いてもらうチャンスが少ないので、認知症は進行してしまう危険があります。


また、協調性がない人、イライラしやすい、気にしやすい人は、認知機能障害の発症リスクに関係性があるという報告があります。前述したように、社会的孤立が認知症の大きな危険因子です。周囲との人間関係をうまく築きにくいことで、社会的孤立を招きやすく、相談相手、話し相手もいないことでストレスを溜めてしまうことになります。


また、認知機能の低下により、日常生活や社会生活に支障が出ている状態が認知症です。何か困ったことがあったとしても、人間関係が希薄なため、周囲からの助けがなかなか得られず、そのまま困った状態に置かれやすいのです。


さらに米国フロリダ州立大学の研究によれば、認知症の発症リスクをもっとも下げるのは「責任感」だとしています。責任感が強い人は認知症の発症リスクが約35%低下していました。また、「自制心」と「勤勉さ」も認知症の予防に関係していたのです。


責任感があって、自分をコントロールでき、勤勉に働く人をひと言でいえば、誠実な人です。誠実な性格の人は認知症になりにくいということでしょう。長寿にとってもっとも重要なことが勤勉性という研究もあります。性格によってリスクにもなりますし、病気の予防にもなるわけです。性格自体はなかなか変えることは難かしく、周囲がサポートしていくしかないでしょう。だからこそ、周囲の人との人間関係を作っていくこと、昔の仲間を大切にして、定期的に会食や宴会をすべきなのです。

米山公啓
脳神経内科医