大阪駅周辺では、1960年代の職人技を感じられる名建築をいくつか見ることができます。建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)でより、大阪・大淀エリアの名建築を詳しく見ていきましょう。
日本建築界の偉才「村野藤吾」の作品から圧巻のスケールを誇る「JR大阪駅」まで…新旧の傑作が一挙に堪能できる〈大阪・梅田周辺〉の名建築10選
斬新さあふれる“天空の城”、名建築家の復元作品…見どころ満載!
07.梅田のはずれに残るレンガ造倉庫「大淀延原倉庫」
なにわ筋を北へ向かった淀川の手前に大きなレンガ倉庫である大淀延原倉庫が残っている。上からモルタルを塗られているので、正直いってどれがレンガ造でどれが木造なのか見分けがつかないが、そんなわかりづらいところも魅力だ。レンガ倉庫の妻側に丸窓のような飾りがあるのが楽しい。
08.かげろうのような天空の城「梅田スカイビル」
建築でもっとも大切なのはスケール感だと思うが、この梅田スカイビルほど逆にスケール感を消失させた建築も珍しい。一面のガラス張りで近くのビルが写り込むことで遠近感がなくなり、そこへ絵に描いたような窓を作ってスケール感を消す。そうすることでかげろうのような天空の城を実現させた。ツインタワーにして上部に円環を載せ、その円の中へ空中エスカレーターを渡すというアイデアも普通は思いつかない。
09.中村與資平の失われた作品「済生会中津病院」
グランフロント横を北へ向かった済生会中津病院は、オリジナルではなく復元だ。中村は静岡県庁や静岡市役所を設計した名建築家だ。八角塔のあたりがスパニッシュスタイルに見え、形は違うがヴォーリズ設計の関西学院旧図書館に似ている。どちらも明るく南国的な開放感が特徴だ。中津病院は前庭が良かった。アプローチが良ければ建築は10倍よく見える。
明治42年、キタの大火で焼けた中津病院の復興費用を寄付したのがメリヤス商、嘉門長藏氏だった。病院は中崎町からこの地へ場所を移して1935年に竣工し、そのとき夫妻の銅像が立てられた。戦時金属供出で銅像が失われ、残った台座を花輪台に見立てて現在の嘉門氏頌徳碑が立てられた。左右の花輪がふっくらとして美しい。花輪掛けは見事な人造大理石の研ぎ出し仕上げだ。
10.ビルと社殿と石鳥居のコラボ「綱敷天神社御旅所」
阪急の高架東側にある綱敷天神社御旅所は、横のビルと一体的に設計されている。唐破風の反りが薄いため屋根が伸びやかで美しい社殿だ。現代的なビルと古式をよく写した社殿と古い石鳥居とがよくまとまって風景を作っているところがすごい。北側の稲荷堂の赤や、ご神燈の列もにぎわいを作り出している。社殿を2階へ上げたことで、石段を上るだけで茶屋町の喧騒から逃れることができる。
円満字 洋介
建築家