人には会話をするとき、無意識にしている「話し方のクセ」というものが多かれ少なれあるものです。しかしながら、会話の際の「話し始めの言葉」には、とくに心を配る必要があると、エッセイストの阿川佐和子氏はいいます。阿川氏の著書『話す力 心をつかむ44のヒント』(文藝春秋)より、相手と心地よいコミュニケーションのために知っておきたい会話のコツについて、詳しくみていきましょう。
ムッとする「だから~」と「それはさておき」
会話の頭に「っていうか」とか「そうじゃなくて」とか「いや」とかをよく使う人がいます。きっと本人には相手を否定しようという意図はなく、「もう一つ、私自身の意見を加えたい」ぐらいの気持で、そういう接続語が出てしまうのだと思います。
が、言われた側は、「っていうか」と来たら、これから自分の発言とは反対の話が出てくるのかと思って神妙に聞いてみるけれど、いっこうに反対意見は出てこない。むしろ結局、私と同じこと言ってるじゃないのと、ちょっとカチンとくることもある。そういう経験をした方はいらっしゃいませんか?
「だから~」という接続詞を癖としている人もときどきいます。こちらがさんざん話をしたのちに、「だから~」とつなげられると、「え? さっきも言われたかしら?」とドキッとします。こちらとしては、「だから~」と言われると、「さっきも言いましたけどね!」と、まるで𠮟責されたように受け止めてしまうからです。
しかしおそらくこれも、言った本人は決して𠮟責しているつもりはないのでしょう。むしろ、「要するに」とか「つまり」とかと同様の意味として発しているに過ぎないかもしれません。
でも! やっぱり言われた側は、かすかにムッとしますよね。気をつけましょう。そうそう、ムッとするよねと同意しているそこのアナタ様! 自分も案外、使っているかもしれないのですぞ。
ある男性の口癖で、気になった接続語がありました。それは、「それはさておき」という言い出し方です。
相手が気持良くとうとうと述べたのち、聞き手であるその男性は、そろそろ次の話題に移りたいと思ったのでしょう。そんなタイミングになると、いつも「それはさておき」という言葉を持ち出す癖があったのです。相手にしてみれば、今まで延々と話した内容が面白くなかったと言われたような、たいした意味はないと否定されたような気分になりがちです。
そんなことまで気にしなくてもいいと言われればそれまでですが、「それはさておき」と話題を変えられると、気勢を削がれた気がして話を続ける意欲がなくなってしまうこともあるでしょう。
ことほど左様に、話し始めの接続語には心を配ることが大事だと思われます。なにしろ使っている本人がいちばん気づいていないことが多いですからね。一度、自分の話し始めに癖があるかどうか、親しい人にでも聞いてみるといいかもしれません。
阿川 佐和子
作家