寝たきりの人や高齢者が利用するものというイメージが強い「在宅医療」ですが、実は、「以前より動くのが少しつらいかな」と感じるくらいがサービスを利用する一つのタイミングだと言われています。コロナ禍での診療控えもあり近年注目度が増している在宅医療について、『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)の著者で在宅医療専門医の中村明澄氏が詳しく解説します。
訪問診療は「月額5,200円」で利用可能な場合も…意外と知られていない〈在宅医療〉の真実【専門医が解説】
在宅でもプロのケアが受けられる“在宅医療”
在宅医療は利用してみないとわからないことがたくさんあります。そのため、誤解もいくつかあるようです。
よくあるのが、「訪問診療は高い」という思い込みです。訪問診療の診療報酬は医学総合管理料、訪問診療料、居宅療養管理指導料の合計となり、患者さんの費用負担は月5,200〜8,200円(医療保険1割、介護保険1割の場合。医学総合管理料は医療機関の種類と病気によって異なる)になります。確かに自分で病院に通院するより医療費は高いかもしれません。
ただ、病状が重くなって徒歩や運転での通院が難しくなるとタクシーを使う機会が増えたり、付き添いが必要になったりします。その負担を考えると訪問診療の費用はそれほど高いとはいえず、実際にはみなさんが想像するほどの金額の差はないともいえます。
「在宅医療は病院と違い、できることが限られている」というのは半分正解であり、半分不正解です。もちろん、手術やCT、MRIを使った検査はできませんが、血液検査や小型のエコーなどである程度の診断や治療ができます。酸素吸入や痛み止めの持続注射などの医療処置もできますし、病院で使用している人工呼吸器を使い続けることも可能です。
24時間連絡がとれますから、夜間に具合が悪くなったときに朝まで我慢したり、体調の悪化を押して自力で病院へ行ったりする必要がなくなります。
在宅医療を躊躇する人の中には「家で亡くなったら警察が入るから、最期は入院して病院で迎えたほうがよい」と言う人がいます。しかし、これも誤解です。在宅医が定期的に訪問しており、老衰やがん終末期などのように亡くなることが予測されている中での呼吸停止なら在宅医が死亡診断書を発行しますから、警察への連絡は不要です。
自宅で患者さんが亡くなったときは、必ず訪問診療や訪問看護の緊急連絡先に連絡を入れましょう。息を引き取る瞬間を誰も見ていなかったからといって動揺する必要はありません。必ずその瞬間を見ていないといけないということはないのです。
家族の寝ている夜中に患者さんが亡くなっており、家族が翌朝気づいた場合は、そのタイミングで緊急連絡先に電話すれば大丈夫です。延命処置を希望されていないときは、「息をしていない!」と気づいて慌てて119番で救急車を要請しないようにしましょう。呼吸が止まっている状態で救急車を呼ぶと、心肺蘇生の対象となって心臓マッサージや人工呼吸が施され、亡くなった場合には警察の検死の対象になってしまうことがあります。
もちろん、在宅医療を受けている患者さんが全員、救急車を呼ばなくていい、というわけではありません。自宅療養の中で想定外に容態が急変した場合には、在宅医が入っていても救急車を要請してもらうことがあります。