高齢化にともなって高まる認知症リスク。認知症の発症により、本人はもちろん、家族にもさまざまな問題が発生します。そのひとつが「意思能力の欠如による口座凍結」です。この問題の解決策は、基本的には「成年後見人制度」しかない一方、日本では成年後見人制度の普及が一向に進んでいないと、司法書士で『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)著者の岡信太郎氏はといいます。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。
親が認知症に→口座が凍結された!“唯一の解決策”は「成年後見人制度」だが…日本で一向に普及しないワケ【司法書士が解説】
財産が凍結→解決策は「成年後見人制度」だけ!?
認知症になり、財産が凍結されてしまったらどうすればいいのでしょうか。解決策としては基本的に「成年後見制度」だけとなります。
成年後見制度とは、裁判所に選任された後見人が、認知症などによって財産管理などの行為をひとりで行うのが難しい方の支援をする制度です。
後見人の仕事は、大きく2つあります。1つ目が「財産管理」です。その最たるものが通帳管理。本人に代わって預貯金の出し入れができるようになります。ほかにも、家の権利書のような財産の保管、不動産の管理、相続への対応などがあります。財産管理だけでなく、本人の生活に不可欠な病院代、公共料金、介護ヘルパー代などの各種支払いを支援することも重要な仕事です。
2つ目が「身上の保護」と呼ばれる仕事です。施設の入所契約や介護契約のような本人の生活を組み立てるものを指します。本人と定期的に面会し、施設担当者や主治医とも定期的にコミュニケーションを取りながら、できる限り本人の意向を反映させていきます。
ただし、後見人であってもできないこともあります。それは食事や入浴の介助です。それらの行為が必要な場合は、後見人はその手配を行うことになります。
また、手術や延命治療などの医療に対する同意はできません。婚姻や離婚、養子縁組を本人の代わりに行ったり、同意したりすることもできません。
成年後見制度は2000年4月1日、介護保険制度と同時にスタートしました。それまで介護サービスを受けるには市区町村等の行政判断が必要でした。いわば「お上」から介護内容や入所施設について指導されなければサービスを利用できなかったのです。
しかし、1980年代以降、日本も高齢化が進み始め、利用するサービスを本人が決定し、みずから契約する形となりました。ここで登場するのが、成年後見制度です。介護保険制度では介護内容や入所施設は利用者が自ら選び、契約する必要があります。しかし、老化や認知症などによる判断能力の低下によってそれが難しいケースがあります。そのとき、本人の代わりとなる人が求められるのです。これが成年後見人です。