社会的には「多様性(ダイバーシティ)」が非常に重視されるようになった一方で「住まい」のダイバーシティ化は進まず、むしろ分断が進んでいると麗澤大学工学部で教授を務める宗健氏は指摘します。宗氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)より、所得の高い世帯が一部地域に集中している理由について見ていきましょう。
所得の違いが居住地を分断し始めている
街にはその街ごとの雰囲気というものがある。いつもと違う場所に行くと自分の住んでいる場所との違いを感じることがあるだろう。
街の雰囲気は、住んでいる人たちによって決まってくる。そこには個々人の学歴や職業、年収といった様々な要素が関係している。ただ、日本は欧米と比べて属性の違いを実感することが難しいかもしれない。欧米の場合は人種が多様で、富裕層はクルマを利用するのに対して低所得者層は地下鉄やバスなどの公共交通機関を利用することが多い傾向があるなど、差が顕著に表れる。しかし日本は欧米よりも人種の多様性が比較的低く、治安も良いことから所得によって利用する交通機関が大きく違うといったことはない。
そうした見えにくい地域の居住者属性の違いを可視化しようと試みたのが、筆者の2018年の論文「富裕層および団地の集積が家賃に与える影響」だ。1都3県の中心部で所得の高い世帯が居住している地域をグレーで表したのが、[図表1][図表2]のマップである。
東京都心3区と23区南西部および中央線沿線、川崎市・横浜市の北部と横浜市山手地区および鎌倉市周辺、さいたま市南部、千葉県では浦安市と千葉市美浜区、印西市といった地域に、「所得区分9」と示した所得の高い世帯が集積していることが分かる。
こうした地域に住んでいる人たちは、意識してのことか、無意識かは分からないが、結果的に似たもの同士が集まって住んでおり、それが地域の雰囲気を形成している。
類似性の法則は同類性とも呼ばれ、顕著に働く例として結婚がある。前述の通り、東京23区には夫婦の両方が大卒で正社員という組み合わせが非常に多い。
この同類性は昔より強まっており、筆者が企画設計分析を行った「いい部屋ネット 街の住みここちランキング」の個票データを集計してみると、全国の既婚者で夫婦両方が大卒である比率は24%だが、回答者が40歳未満の場合には31.5%に高まる。
これは、若年層の大卒率が高いという影響もあるが、
宗 健
麗澤大学工学部教授/AI・ビジネス研究センター長