裁判所が「契約解除」までは認めなかったワケ

また、契約の解除までを認めなかった理由について、裁判所は

「確かに、Aによる脅迫的言辞による要求が続く限り、本件売買土地上に建物を建築して平穏に居住することには、物理的又は心理的に相当な困難が伴うことは否定できない。

しかし、上記のようなAによる要求が法律上理由のないものであり、原告らがこれに従う義務のないことはいうまでもない」

「また、Aによる上記のような要求は、その態様、程度によっては、脅迫罪や強要罪等の犯罪にも当たり得る行為であり、そのような場合には、刑事手続による検挙、処罰によってこれを抑止することも期待できるし、民事上も、Aがそのような要求を繰り返して本件敷地部分における建物の建築を妨害するならば、仮処分手続等によってその差止めを求めることも考えられるのであって、本件瑕疵の存在によって本件敷地部分の上に建物を建築して平穏に居住することがおよそ不可能になっているとまでいうことはできない」

「したがって、本件瑕疵の存在によって本件売買契約を締結した目的を達することができなくなったとする原告らの主張は、採用することができない」

「以上によれば、原告らは、本件瑕疵の存在を理由に民法五七〇条、五六六条による瑕疵担保責任に基づき、被告らに対して損害賠償請求をすることはできるが、本件売買契約の解除をすることまではできないというべきである」

本件は、宅地の売買について物理的瑕疵ではなく、いわゆる「心理的瑕疵」を認めた一つの事例として参考になります。

なお、瑕疵担保責任の請求は、損害賠償が原則であり、契約の解除は例外と位置づけられているため、本件でも契約の解除については、裁判所は非常に高いハードルを設定しています。

この記事は2018年5月2日時点の情報に基づいて書かれています(※2021年11月19日加筆、2024年5月13日再監修済)。

北村 亮典
大江・田中・大宅法律事務所
弁護士