2:加給年金が支給停止になる

加給年金とは、厚生年金に加入していて、さらに65歳未満の配偶者がいる場合にもらえる年金のことです。年金受給者の「家族手当」というとイメージしやすいかもしれません。もらえる金額は、年間22万8,700円です。

これに加えて、特別加算額というものがあります。年金をもらう人の誕生日が1943年4月2日以降の場合、年間16万8,800円もらえます。加給年金と合わせると、合計39万7,500円です。大きな金額なので受け取れる場合には助かりますが、 繰下げ受給をすると、両方とももらえなくなってしまうのです。

ワ:これまた悩ましいね。

たとえば6歳差の夫婦の場合、年間約40万円の6年間分ですから、240万円も損してしまう計算になります。

サト:私の妻は8歳下だから、320万円も損をするのか……320万円は新卒社員の手取り年収くらいの額だね!逃すのはもったいない。どうすればいいの?

ちょっとしたコツがあります。実は、基礎年金部分と厚生年金部分は分けて繰り下げすることができるのです。

加給年金は厚生年金から支給される年金なので繰り下げせず、65歳から受給します。基礎年金部分は繰り下げ。こうすることで基礎年金の受給額を増やしながら、加給年金も受け取ることができます。

サト:初めて知ったよ。こういうこと、誰も教えてくれないよなあ。

年の差があるご夫婦の場合は、受け取る加給年金の総額が大きくなります。ここはしっかり押さえておきたいポイントです。

3:振替加算が支給停止になる

振替加算とは、加給年金の対象となっている配偶者が65歳となり、自分の年金を受け取りはじめた時に、老齢基礎年金に上乗せされる年金のことです。

これは、1986年4月1日以前に専業主婦だった女性が、年金の受取額で不利となることがあるためできた救済制度です。ですから、1966年(昭和41年)4月2日以降に生まれた人はもらえません。2024年現在、58歳以上の人がもらえる加算額です。

ワ:専業主婦が一般的だった時代の制度なんだね

この振替加算も、繰下げ受給をするともらえないので注意が必要です。受給できる金額は年齢によって異なります。日本年金機構のホームページに一覧表があります。

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html
日本年金機構webサイト:加給年金額と振替加算 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html
日本年金機構webサイト:加給年金額と振替加算 https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kakyu-hurikae/20150401.html

48歳の人で月額1,276円と大きくはありませんが、積み重なると大きな金額になりますよね。

繰り下げすることでもらえなくなる振替加算がいくらなのか、繰り下げすることで増える金額がいくらなのかを比較して、検討してみてください。

3:医療費・介護費が高くなる

繰上げ受給をすることで、所得額が高くなると、医療費の窓口負担額が上がる可能性があります。

2022年10月1日から、後期高齢者のうち、一定以上の所得がある人は医療費の窓口負担が2割となりました。この一定の所得とは、次のようなものです。

年金収入+その他の合計所得金額の合計額

・1人の場合は200万円以上
・2人以上の場合は合計320万円以上

繰下げ受給をしてこれに当てはまると、医療費の窓口負担が2割となってしまいます。また、介護保険の負担割合も所得に応じて、1割、2割、3割と分かれます。

年間所得が280万円以上になると、負担割合は2割になります。

このように繰下げ受給で年金受給額が増えると、医療費と介護費が高くなる可能性があります。

ワ:なんと!

サト:私の父親も生前は75歳を過ぎた頃には毎日のように病院に通っていたよ。私も同じような生活になるかもしれない。繰下げ受給でせっかく年金額が増えても、病院の窓口負担が増えてしまったら得しているのか損しているのか分からないよな…。

とはいえ、 繰下げ受給が必ずしも不利とは限りません。何度も言いますが、年金が増える額と、税金や医療費などで減ってしまう額を比較して決めたほうがいいですよ。比較をするための計算が面倒な人は、日本年金機構の窓口に依頼しましょう。

ワ: は~い!

5:繰り下げ期間中に死亡すると大損

 繰り下げして年金を増やそうとしても、早くに亡くなってしまっては大損です。

サト:そうそう。それが一番心配だよ。75歳まで繰り下げすると、年金が84%も増えるのはありがたい。でも、76歳で亡くなってしまったらすべて台無しじゃないの? 私の父親は79歳で亡くなったよ。

確かにそうですね。75歳まで楽しみにしてきたのに、それまでに亡くなってしまったら、自分は1円も受け取れないことになります。

ワ:辛すぎるよう。

そこで国では救済措置を用意しています。

ワ:ホッ。

繰り下げ期間中に亡くなった場合、過去5年間の未支給年金を遺族が受け取れる制度があるんです。

しかし

・繰り下げしたのに増額はなし
・5年間より前には遡れない

となります。

遺族が直近5年間、増額分なしの未支給年金を受け取ることができますが、自分自身は1円も受け取れません。損をした気分になってしまう方もいるでしょう。亡くなるまでの闘病期間中も年金は受け取れないままなので、治療費の捻出に苦労する場合もあります。

さらに、もし1ヵ月だけ年金をもらって亡くなった場合は、経済的に損をします。遺族が5年間分を遡って受給することができなくなるからです。

ワ:なんと!

年金の支給は原則65歳からで、繰り下げ受給をする場合は66歳以降になるわけですから、一般的に繰り下げ受給者は万全な健康状態の人が少なくなります。いつ自分が死ぬか分からないというなかで繰り下げ待機をするのは、さすがに不安ですよね。

そこで新制度が始まりました。特例的な「繰り下げみなし増額制度」です。これ、実はものすごくメリットがある制度なんです。

ワ:ぜひ教えて!

たとえば、75歳まで繰り下げしようと待機していたものの、74歳で大きな病気をしてしまったとします。その場合、5年前に遡って、「年金の繰下げ請求手続きをしたことにできる」というのがこの制度です。

5年前に繰下げ受給の手続きをしたものとして、5年分の年金を増やして一括で受け取れるんです!これを「本来の年金額」といいます。

ワ:おお! ありがたいね!

もし71歳で繰下げ受給の手続きをしたら、5年さかのぼって66歳から現時点までの年金を一括で受け取るということです。もらう金額は1年繰り下げして、66歳で年金を受け取ったのと同じ額、その5年間分です。

66歳で繰下げ受給をした場合、年金は8.4%増えます。8.4%増えた5年分の年金を一括で受け取れるということです。

また、66歳まで繰下げして増えた年金は、そこから亡くなるまで一生受け取ることができます。

サト:なんだかややこしいな…一括で大きなお金がもらえて、しかも毎月の年金額は増えて一生もらえるということ?

はい、その通りです。詳しい仕組みについては、日本年金機構のホームページをご確認くださいね。

サト:そうだとしたら、介護付き有料老人ホームも現実的になるね。一括で受け取った額を入居一時金にして、増えた年金を使って月額利用料を支払ってもいいんだね。

そうです、これは老後に大きな病気を患ったときにも役に立ちますね。

ワ:老後の選択肢が広がるね。

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