年金は原則65歳から受け取ります。これを66歳から75歳まで遅らせて受け取ることを繰下げ受給といいます。繰下げ受給は、受取年齢を遅らせるほど受取額が増えるのが特徴ですが、実は知らないと損をしてしまう落とし穴もたくさんあります。今回は、繰下げ受給で損をしない方法”を、60歳の主人公サトシさんを例に紹介します。
年金の繰り下げ受給は、損するって本当ですか?…8歳年下、専業主婦の妻と暮らす高齢男性が「320万円」もらい損ねる危機に瀕したワケ
1: 年金の壁(211万円の壁)で手取りが減る
「年金の壁」と呼ばれている現象があります。世帯主の年金の受取額が、211万円を超えて212万円になると、なんと手取り額が減ってしまうという恐ろしい逆転現象です。
それは年金に「住民税」が課税されるかどうかで決まります。老齢年金を受け取ると、本来は「雑所得」として課税の対象となります。
しかし老齢年金は、老後の生活を守る大切なお金です。特に年金が少ない人からむりやり税金を奪うなんて、国もさすがにしません。
ワ:ホッ。
受け取った老齢年金から、一定の金額を控除してくれるのです。これを、「公的年金等控除」といいます。
ワ:具体的に、いくらぐらい控除してもらえるの~?
たとえば年金の受取額が年間330万円以下の人は、110万円の公的年金等控除があります。この他に、65歳以上の人には住民税の非課税枠もあります。住民税の非課税枠は、下記の計算式より導くことができます。
35万円(基礎控除)×2(世帯人員)+10万円(所得金額調整控除)+21万円(被扶養者がいる場合に加算できる金額)
配偶者がいる人の場合、合計101万円となります。
この住民税の非課税枠101万円に、公的年金等控除の110万円を足すと、211万円となります。配偶者がいる65歳以上の年金受給者は、211万円以下であれば非課税になるということです。
年金が211万円なのか、212万円なのかで、手取り額が大きく変わってきます。ざっくりとした計算ですが、211万円が212万円になるだけで課税され、結果的に手取り額が減ってしまいます。
ワ:知らないと損しちゃうね。
これはあくまでも一例ですが、
受け取る年金額を211万円に抑えることで、年間約12万円も手取りが増える可能性があります。この金額は、お住いの市区町村によって多少異なります。ご自身が住んでいる地域の税額はホームページなどでしっかり確認しましょう。
上記3つの税金について1つ1つ見ていきましょう。まず住民税は均等割と呼ばれ、固定の金額のみがかかります。お住いの市区町村によって均等割の金額は異なります。大田区の場合は5,000円、世田谷区の場合は4,000円、横浜市は7,200円と差があります。
ワ:住んでいる市区町村によって、そんなに均等割の額が異なるんだね。
次に、国民健康保険料について確認しましょう。住民税非課税世帯の場合、均等割から5割の軽減を受けることができます。
次に介護保険料について確認しましょう。住民税非課税世帯の場合、介護保険料段階2.3.4段階に該当するため、保険料基準額(第5段階)よりも35%~70%安く抑えることができます。
国民健康保険料と介護保険料もまた市区町村によって異なるため、各自治体のホームページで減免額をご確認ください。
ワ:要チェックだね!
そのほかにも、非課税世帯となることでこのようなメリットもあります。
・医療費負担が1割になる
・NHK受信料が全額免除(障害者手帳などを持っている場合)
・高額介護サービス費の自己負担が減額
・インフルエンザなどの予防接種が無料
・入院中の食事代の負担が減額
記憶に新しいところでは、電力・ガス・食料品等価格高騰緊急支援給付金が、住民税非課税世帯に限定して、5万円支給されました。どれも老後の生活には助かるものばかりです。
しかし、年金の繰下げ受給によって受取額が211万円を超えてしまうと、これらのメリットがなくなってしまいます。
ワ:どっちが自分にとってお得か、慎重に考えないといけないね!
サト:つまり住民税非課税世帯になるとメリットが多いということだね。ということは、むしろ繰上げ受給をして早く年金を受け取ったほうが、得な場合もあるってことか……
必ずしもそうとは限りませんが、繰上げ受給をしたほうが手取りの総額が多くなるケースもあります。