遺産分割協議は、親族同士で揉めることなく、なるべく穏便かつ迅速に終わらせたいもの。しかし、短時間で済ませようとすることで、思わぬリスクに繋がることもあるようです。遺産分割協議をする際の注意点を、税理士法人レガシィの天野大輔氏の著書『相続でモメる人、モメない人』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツ
遺産分割でモメそうになったとき、外に敵をつくって相続人同士が団結する方法もあります。これは世界中の外交戦略でも使われている方法です。
では、誰を敵にするか。あくまで便宜上ですが、税務署がいいでしょう。「税務署(敵に)に支払う税金を減らすためにはどうすればいいか」を相続人が協力して話し合うのです。結果、モメにくくなります。
モメてからでは、損をすることがわかっていても譲れなくなってしまいます。モメる前に、相続人がまとまるきっかけをつくるといいでしょう。
遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツは2つあります。
1.相続人に「何が欲しいか」を聞く
2.長男が土地を相続する代わりに、次男や長女にお金を渡す
一つ目は「何が欲しいか」を聞くことです。相続人はそれぞれ希望が異なります。お金を欲しい人がいれば、土地が欲しい人もいます。各相続人が何を欲しいのか、それを把握することが遺産分割の話し合いをスムーズに進めるコツとなります。
二つ目は自宅以外に分ける財産がほとんどない場合のコツです。このケースでは長男が土地を相続する代わりに、次男や長女にお金を渡すことで遺産分割がスムーズに進む場合が多くなります。次男や長女もお金のほうが納得しやすいからです。
最近は土地を欲しいと考える人はあまりいません。売却して現金化しようと考えても、どれくらいで売れるか判断が難しいですし、売れたとしても約2割の税金がかかりますので、手元には8割しか残りません。保有している間は、固定資産税もかかります。
長男が自宅の土地を相続してわずらわしさを引き受ける。その代わりに、次男や長女には長男からお金を渡す。この分割方法を「代償分割」と呼びます。代償分割を活用することが遺産分割をスムーズに進めるコツなのです。
代償分割のリスクとは
ただし、代償分割を利用する上では注意が必要なこともあります。代償分割と現物分割を比べると、後で困らないのは現物分割だからです。
たとえば、相続財産のほとんどが自宅の土地で相続人が長男と次男の場合で、土地を2分割して次男に渡せば、その土地をどう利用しようと次男の自由です。長男も自分の相続した土地を自由に利用できます。
しかし、代償分割では長男が土地をすべて相続して、代わりに現金を次男に渡します。土地にかかる税金や運用リスクをすべて長男が引き受けることになります。長男に代償金を支払う余裕があればいいのですが、なければ土地を活用して工面しなければなりません。土地の一部に賃貸マンションを建てて、家賃収入を得るなどの方法もありますが、簡単ではありません。
多くの場合、借金をして賃貸マンションを建てることになりますし、空室が多ければローンの返済さえできなくなってしまう可能性があります。
代償分割にはこうしたリスクを伴いますので、利用する場合には相続後のことも十分に考えて選択する必要があります。
天野 大輔
税理士
税理士法人レガシィ