読む文学から体験する文学へ
手紙が電話になり、携帯電話のメールになり、スマートフォンのチャットに変化し、時代に対応されていったように、文学を残し、後世に引き継ぎたい想いがあるならば、文学の楽しみ方も時代の変化に対応していくべきです。
「ある朝、目覚めたら虫に変身していた」-この衝撃的な冒頭の一文は、フランツ・カフカの小説『変身(Die Verwandlung)』からのものです。2016年にはこの小説を基にしたVRインスタレーション「VRWandlung」が発表され、2018年には日本でも展示されました。VR体験を通して、カフカの「疎外」をテーマにした小説を、実際に体験する形で再現しています。
また、『Anne Frank House VR』は、オランダのVR/ARスタジオであるForce Fieldによって制作されたVR体験です。プレイヤーは、このVR体験を通して、アンネ・フランクが「アンネの日記」を書いた隠れ家を探索することができます。隠れ家内の本や写真に触れると、アンネの日記の内容が朗読形式で聞けるなど体験ができます。
文学作品をVRテクノロジーで拡張することは、従来の「文学を読む」という概念を超えて、「文学を体感する」という新しいアプローチを提案しています。読書によって育まれる想像力や、個人の人生経験に基づく解釈の多様性は、伝統的な文学の魅力です。
しかし、VRを利用した「文学を体験する」という方法は、新しい楽しみ方や探究の可能性を開拓します。このように、テクノロジーを融合することで、時代にフィットした形で人々に新しい形で届けることができ、それが結果的に産業や文化を守ることに繋がるのではないでしょうか。
VRを介してアニメや文学作品の世界に没入し、登場人物との交流を通じて物語を進める体験は、これまでの楽しみ方に新たな次元を加えています。特に歴史的な文学作品を視覚や聴覚で体感することにより、その時代の雰囲気をより具体的に理解することが可能になります。
文学は、「自分の経験以上のもの」を与えてくれるものだと思います。私たちは、一人につき一つの固有の人生を生きており、他人の人生を生きることはできません。しかし文学を読むことで、他人の人生を追体験することは可能です。一度の人生で、何人もの人生を体験できることは喜ばしいことです。
それが今、テクノロジーの発展によって、読むのではなく、他者の人生そのものを、その人の視点になって体験することが可能な時代となりました。そこでは、人々は何を感じ、この先の未来をどう描いていくのでしょうか。
このようなVR体験を一度試してみることをお勧めします。
[筆者プロフィール]
齊藤大将
株式会社シュタインズ代表取締役。
情報経営イノベーション専門職大学客員教授。
エストニアの国立大学タリン工科大学物理学修士修了。大学院では文学の数値解析の研究に従事。
現在はテクノロジー×教育の事業や研究開発を進める。個人制作で仮想空間に学校(私立VRC学園)や美術館を創作。