身内が亡くなった後、故人が契約していた公共料金や銀行での手続きが必要になります。「死去のあと、すぐに銀行口座が凍結されてしまって、葬儀の費用や生活費を引き出すことができなくて困った」という話を耳にすることがありますが、実際には「役所に死亡届を出したからといって銀行口座の凍結(入出金停止)が自動的に行われるということはない」と、相続実務士の曽根恵子氏は言います。曽根氏の著書『身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本』(扶桑社)より詳しく見ていきましょう。
相続発生→口座凍結後も一定額の預貯金の引き出しが可能だが…知らないと損する「預貯金の返還」を求められるケースとは【相続実務士が助言】
“一部払い戻し可”も…「遺品整理」をして故人の銀行口座を把握
故人がもっている銀行口座をすべて把握しているという人は、少ないのではないかと思います。まずは故人の持ち物を整理して、通帳やキャッシュカードがないかチェックしてみましょう。注意が必要なのは、ネット銀行を利用している可能性がある場合です。ネット銀行は通帳がないので、パソコンやスマートフォンなどをチェックします。金融機関からのメールや、インターネットのブックマークの履歴などを確認してみましょう。ネット銀行の口座が見つかった場合は、ネット銀行のカスタマーサービスに連絡して、手続き方法を確認するようにしましょう。
取り引きのない口座も忘れずに手続きを
10年以上、入出金などの取り引きがない口座は“休眠口座”とされ、預貯金は民間公益活動に利用されることになります。残高の少ない口座も忘れずにしっかり手続きをして、休眠口座にしないようにしましょう。
凍結中の口座でも一定額払い戻しが可能に
「死去のあと、すぐに銀行口座が凍結されてしまって、葬儀の費用や生活費を引き出すことができなくて困った」という話を耳にしたことがあると思いますが、役所に死亡届を出したからといって銀行口座の凍結(入出金停止)が自動的に行われるということはありません。金融機関は「名義人が死亡したことを知ったときに凍結する」というのが基本です。
故人の家族が金融機関に名義人の死を知らせて、口座を凍結してもらい、預金残高証明書を発行してもらいます。これは、故人の相続財産を守るための制度で、相続人のだれかが勝手に使ったりするのを防ぐためのものです。遺産の分割が決定すれば、口座の凍結は解除されます。
一方で、遺産の分割でもめて、何年も長引くという恐れもあります。そういったケースをフォローするため、2019年に「預貯金の払い戻し制度」が設けられました。これにより、各相続人は、凍結された預金口座から、決められた額まで払い戻しができるようになりました。金額は、下の図のように決まります。
必要であれば、この預貯金を葬儀費用や相続税の支払い、生活費などにあてることができます。ただし、その金額が相続分以上の金額になった場合、返還を求められる可能性もあるので注意が必要です。
1つの金融機関からの払い戻しは150万円まで
払い戻しの限度額は法定相続割合に従って計算します。複数の金融機関に預貯金がある場合はそれぞれ払い戻しできますが、1つの金融機関からの払い戻しは150万円が上限。払い戻した金額は相続財産として取得したとみなされ、遺産分割の際に調整されます