もしいま、自分が離婚をする場合、配偶者へいくら支払うことになるでしょうか。「離婚の値段」は原因や婚姻期間などによってさまざま変わりますが、熟年離婚が増えている昨今、支払う金額は想像を超えるものになるケースが少なくないようで……。本記事では江口さん(仮名)の事例とともに、定年を前にした会社員男性における「離婚の値段」について、行政書士の露木幸彦氏が解説します。
夕飯はスーパーの半額弁当、洗濯物は高く積み上げられ…年収700万円の55歳・会社員夫、別れを切り出すも専業主婦妻は「断固拒否」→「妥当な離婚の値段」に衝撃【行政書士が解説】
慰謝料と財産分与
第二に慰謝料と財産分与ですが、司法統計年報によると全体の48%は慰謝料や財産分与の約束を取り交わす模様。具体的な金額ですが、結婚5~10年なら304万円、10~15年なら438万円、15~20年なら534万円、20年以上なら699万円が平均です。
孝弘さんの場合、預貯金は800万円しかありませんが、妻が「500万円払わないと別れてあげない!」と態度を硬化させたので、妻の言い値の慰謝料を支払うしかありませんでした。
結婚期間中に築いた財産は法律上、夫婦の共有です(民法762条)。離婚時は、財産の合計を夫5割、妻5割でわけ合うのが原則です(民法768条)。
孝弘さんの場合は、500万円という高額な慰謝料の支払いを約束しており、手元に300万円しか残っておらず、これは娘さんの学費に充当します。そこで5年後に受け取る予定の退職金(約700万円)でなんとかすることに。定年退職するときに半分の350万円を渡すことを約束したのです。
相応な婚姻費用
第三に婚姻費用ですが、離婚協議が長期化すればするほど膨らんでいくので無視できません。具体的な金額は養育費と同じく(婚姻費用)算定表を使います。
たとえば、妻がパートタイマーの場合、夫の年収が900万円、妻が100万円、子どもが17歳なら婚姻費用は毎月19万円が妥当な金額です。一方、夫婦が共働きの場合、夫の年収が500万円、妻が400万円、子どもが12歳と14歳なら毎月10万円です。
孝弘さんの場合、算定表に照らすと毎月15万円が妥当な金額です。すでに離婚が決定的になっているにもかかわらず、条件を決めるのに1年間、かかったので婚姻費用として計180万円を支払うしかありませんでした。
熟年離婚は高くつくが…
こうして孝弘さんはなんとか離婚に漕ぎつけたのですが、一方で1,594万円(養育費264万円、学費300万円、慰謝料500万円、退職金350万円、婚姻費用180万円)を失い、大きな代償を払った格好です。
孝弘さんのように同居20~25年の夫婦の離婚は30年で3割近く増えています。(1990年は1万2,801組、2020は1万7,321組。厚生労働省の令和4年、人口動態統計特殊報告)。残りの人生は決して長くありません。ない袖は振れませんが、この年代はこれから退職金や企業年金、公的年金などを受け取るため、選択肢は豊富です。財産を上手く使って離婚を勝ち取るのも1つの選択肢でしょう。
露木 幸彦
露木行政書士事務所