今やその名前を知らない人はほとんどいない日本中…いや、全米も熱中するアスリート・大谷翔平。ライターの内野宗治氏によると、「大谷翔平は社会現象だ」と言い切ります。そこで本記事では内野氏による新刊『大谷翔平の社会学』(扶桑社)から一部抜粋し、“大谷翔平という社会現象”について論じます。
年俸「後払い」契約への反応が日米で真逆になっているワケ
さらに、大谷とドジャースの契約は双方の合意により、年俸総額の97%が契約期間満了後の2034~2043年に「後払い」されるという異例の内容だったが、この契約内容が思わぬ物議を醸した。
ドジャースが本拠地を置くカリフォルニア州の会計監査官が、大谷の契約について「無制限の後払いは税の公平な分配を妨げている」との声明を発表し、税制の見直しを要求したのだ。
通常なら1年ごとに支払われる年俸の大部分が後払いとなることで、大谷が州に納付する税額が減り、結果として州の税収が減ることを問題視したのだ。金額が巨大なためにその影響は大きく、もし大谷が後払いされる期間にカリフォルニア州外へ転居した場合、州は9,800万ドル(約141億円)の税収を失うとのことだった。
カリフォルニア雇用・経済センターの試算によると、この金額は2021年における納税者の下位178万人分に相当する。
大谷が年俸の大部分を「後払い」で受け取ることは、日本では「自分を犠牲にしてチームの財政を助ける」美談として扱われたが、アメリカでは逆に「税の公平な分配を妨げる」身勝手な行為と見なされたのだ。
貧富の差が激しいアメリカでは、大谷のような高給取りにはガッツリ稼いでもらい、そのぶんたくさん税金を収めてくれ、という話になるのだろう。いずれにしても大谷の超大型契約は、アメリカ財政に関わる議論にまで発展したのだ。ここまでくるともう「たかが野球選手」とは言えない。社会的な影響力は、スポーツやアスリートの域を越えている。
スペイン語のラップに登場した“Ohtani”
実際に大谷は2021年、アメリカの有名雑誌である『TIME』が発表した「世界で最も影響力のある100人」に選出された。
同誌が毎年発表しているこのリストは「アイコン」「リーダー」「アーティスト」など6つのカテゴリーに分かれており、大谷は「アイコン」部門で選ばれた。
同じ「アイコン」部門にはほかにヘンリー王子とメーガン妃のサセックス公爵夫妻、歌手のブリトニー・スピアーズ、テニス界のスター大坂なおみら、そうそうたる顔触れが並ぶ。「リーダー」部門ではアメリカのジョー・バイデン大統領やドナルド・トランプ前大統領らが名を連ねた。
ちなみに、このリストの「アーティスト」部門に選出されたプエルトリコ出身の世界的ラッパー、バッド・バニーは2023年、スペイン語で歌う新曲の歌詞にこんな一節を乗せた。
“Pichando y dando palos como Ohtani”(オータニのように投げて打つ)
大谷の名前が、グラミー賞アーティストの歌にまで登場したのだ(しかもスペイン語で)。