魚の摂取による研究結果はどうだったか

では、魚の摂取では果たしてどちらが上回るのでしょうか。

魚の益の代表は、先ほどご紹介したEPAやDHAなどの魚の脂の効果です。これらの脂質には、中性脂肪を低下させ、心臓や血管を守る効果が指摘されています※3。ただし、それだけで益と判断するのはまだ早いです。理論上の効果が本当に人間に表れるかは分からないからです。

そこで、EPAやDHAを抽出したサプリメントが偽物のサプリメントと比較して効果があるかを見た研究があるのでご紹介します。この研究は、VITAL試験※4と呼ばれるもので、もともと魚の摂取が少ない参加者を対象に、魚の脂を1日あたり1g補給してもらうことで、心臓の病気やがんに対して予防効果が得られるかが評価されました。結果として、予防効果は確認できませんでした。

一方、REDUCE-IT試験※5という研究では、中性脂肪の高い心臓・血管の病気がある人、あるいはそのリスクが高い人にEPAだけを1日あたり4g投与した時の効果を評価しましたが、心臓・血管疾患の発症が減るということが分かりました。

一見二つの研究結果は相反するようですが、よく見ると、対象者、投与した成分、投与した量、測定した効果が異なることが分かります。

これらの結果から、少なくともリスクの高い人はEPAを十分量とれば、心臓に保護的な効果が得られそうです。

では、次に魚自体の摂取ではどうかというと、これは少し評価が難しくなります。

この場合、サプリメントと異なり、本物の魚と偽物の魚で比較した介入試験というのは実施が困難だからです。かわりに、魚を食べている人とあまり食べない人でどのぐらい心臓の病気の発症率が違うのかを「観察」する観察研究の結果が主になります。それでは研究を見てみましょう。
 
40万人分のデータをまとめて解析した研究※6では、魚を1週あたり最低100g食べている人と1ヶ月に1回未満にとどまる人とを比較して、心筋梗塞の発症率を評価しました。すると、前者が後者と比べて、心筋梗塞のリスクが減っているという関連性が見られました。

また、19万人を対象とした別の研究※7では、心臓・血管疾患の既往のある人の中で、少なくとも週合計175g(週2回)の魚の摂取と、心臓・血管疾患ないし死亡のリスクの低下との間に関連が示されました。

こうした関連性は他の研究でも繰り返し確認されており、少なくとも、魚の摂取習慣と心血管疾患のリスク低減との間には、何らかの関連性がありそうです。

魚に含まれる微量汚染物質の影響はどうでしょうか。まず、市販の魚には、ダイオキシンやPCBなどの汚染物質が少量含まれていますが、これは肉や野菜など他の食品にも同様に含まれており、魚の摂取により特別にリスクが増加することはないと考えられています。水銀については、魚に通常含まれるレベルの水銀値と認知機能や死亡リスクとの関連を調べた研究がありますが、関連性は見られていません※2 8

逆に、魚の摂取が脳卒中、認知症、うつ病などに好影響を与える可能性を示唆する証拠は増えてきており、ネガティブな関連性は否定的となりつつあります※2 9

このように、観察研究で魚を多く摂取している人の健康状態が改善されていることは、魚に含まれる微量の汚染物質が、健康上の純利益を減少させている可能性はあるものの、成人の場合には害を多くもたらす可能性は低いことを示唆していると考えることができます。

しかし、胎児や乳児の脳の発達には微量でも悪影響を及ぼす懸念から、妊娠の可能性がある女性や授乳中の女性は、水銀を多く含む大型で長寿の魚(サメ、メカジキ、カワハギ、クロダイなど)や、有機汚染物質が蔓延している地域で捕獲された魚を避けるよう推奨されています※10

一方、魚に含まれるDHAは子供の脳の発達に不可欠であるため、母親が全ての魚を避けるべきではないとされていて、米国食品医薬品局による推奨では、妊娠中の女性は、水銀含有量の少ない魚介類(サケ、エビ、マス、サバ、ニシン、イワシ、タラなど)を1週間に2~3回は食べることとされています※10

また、一般成人に対しては、米国心臓学会が、様々な種類の魚(サケ、マス、マグロなどの脂を多く含む魚が望ましい)を週2回以上食べることを推奨しています※11

結局、魚は健康にいい?悪い?

まとめると、魚の「直接的な効果」は必ずしも確認できてはいませんが、魚の脂の効果を示す研究や魚の観察研究の結果から、益が害を上回ると考えられ、少なくとも週2回程度を目安に、魚を食べることが勧められていることが分かります。

毎日「肉」派のあなたは、週に、まずは、1回や2回から魚に置き換えてみてはいかがでしょうか。

魚の直接的な健康への効果は必ずしも明らかではない部分もありますが、米国心臓学会などの専門学会は、最低週2回程度の魚の摂取を推奨しています。

妊娠中も、水銀含有量の少ない魚介類を選択して安全に摂取することが可能です。
 

※1:Mozaffarian D. Fish, Cardiovascular Disease, and Mortality—What Is the Global Evidence? JAMA Intern Med 2021; 181: 649–51.
※2:Mozaffarian D, Rimm EB. Fish Intake, Contaminants, and Human Health: Evaluating the Risks and the Benefits. JAMA 2006; 296: 1885–99.
※3:Mozaffarian D, Wu JHY. Omega-3 fatty acids and cardiovascular disease: Effects on risk factors, molecular pathways, and clinical events.J Am Coll Cardiol 2011; 58: 2047–67.
※4:Manson JE, Cook NR, Lee I-M, et al. Marine n-3 Fatty Acids and Prevention of Cardiovascular Disease and Cancer. N Engl J Med 2019;380: 23–32.
※5:Bhatt DL, Steg PG, Miller M, et al. Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia. N Engl J Med 2019; 380:11–22.
※6:Leung Yinko SSL, Stark KD, Thanassoulis G, Pilote L. Fish consumption and acute coronary syndrome: a meta-analysis. Am J Med 2014;127: 848-857.e2.
※7:Mohan D, Mente A, Dehghan M, et al. Associations of Fish Consumption With Risk of Cardiovascular Disease and Mortality Among
Individuals With or Without Vascular Disease From 58 Countries. JAMA Intern Med 2021; 181: 631–49.
※8:Sun Y, Liu B, Rong S, et al. Association of Seafood Consumption and Mercury Exposure With Cardiovascular and All-Cause Mortality Among US Adults. JAMA Netw Open 2021; 4: e2136367
※9:Cederholm T. Fish consumption and omega-3 fatty acid supplementation for prevention or treatment of cognitive decline, dementia or Alzheimer’s disease in older adults - any news? Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2017; 20: 104–9. 10
※10:Advice about Eating Fish | FDA. https://www.fda.gov/food/consumers/advice-about-eating-fish (accessed Dec 16, 2021).
※11:Eating fish twice a week reduces heart stroke risk | American Heart Association. https://www.heart.org/en/news/2018/05/25/eatingfish-twice-a-week-reduces-heart-stroke-risk (accessed Dec 17, 2021).

山田 悠史

米国老年医学・内科専門医