大阪の「淀屋橋」周辺エリアでは、「大阪俱楽部」や「三井住友銀行大阪本店」などの華やかなクラシックビルを見ることができます。大阪モダン都市のデザインの礎を形成した建築家・安井武雄の作品を、建築家である円満字洋介氏の著書『京都・大阪・神戸 名建築さんぽマップ 増補改訂版』(エクスナレッジ)より詳しく見ていきましょう。
安井武雄の出世作をはじめ、存在感のあるモダニズム建築が多数
06.ロマンチックさ溢れる片岡建築の原型「オペラ・ドメーヌ高麗橋」
すぐ南のオペラ・ドメーヌ高麗橋(こうらいばし)、片岡の原形はこうしたセセッション的なものだったのだろう。レンガ壁に石材で横ラインを入れるのは師匠ゆずりの辰野式だが、曲線を多用するがゆえに、全体にセセッション的なロマンチック感があふれているところなどはやはり片岡らしい。東北角の煙突底に張り付いたアカンサスの葉、南西角上部のソフトクリーム型の花かごは、いずれも石造であり、大阪の石工文化の優秀さを表している。
07.街なかのリズミカルな教会「浪花教会」
となりの浪花教会(なにわきょうかい)のファサードには、3つの大きさの異なるアーチが並ぶ。両脇に尖塔風の袖壁を備えているが、アーチの大きさに従って袖壁の高さを変えて、それが壁面の単調さを破ってリズムを生み出している。単なるモチーフの寄せ集めではなく、様式の持つリズムを引き出すのが建築家の仕事なのだ。
08.安井武雄の出世作「高麗橋野村ビルディング」
堺筋に出て北へ少しの高麗橋野村ビルディングは、安井武雄の出世作といえよう。後に続く大阪ガスビルの前段階と見られることが多いが、わたしは大阪ガスビルとはまた違う完成された世界観が示されていると思う。ここでも彼は玄関脇に柱を立てている。壁に貼りついているが大阪倶楽部の魚の石柱と同じ扱いだ。安井の東洋趣味的幻想がここにもある。
09.曾禰中條の形見「三井住友銀行大阪中央支店」
堺筋をはさんで向かいの三井住友銀行大阪中央支店は、今となっては数少ない正統な新古典主義様式である。この建物はイオニア式の柱頭で飾られたジャイアントオーダーの列柱でまとめている。南側の玄関扉は見事なブロンズ製で見どころのひとつだ。南面は列柱が扁平になっているのもおもしろい。正面列柱上のメダリオンは蛇と杖の紋章でギリシャ神話の神ヘルメスの持つ杖だ。降霊の杖であり冥界との通信が可能だという。この建物の竣工した年に中條精一郎が亡くなり、翌年曽禰達蔵も亡くなっている。だからこれは曾禰中條の形見のような建物なのだ。こうした様式建築は以後大阪でも作られなくなっていく。
10.河合浩蔵の軽やかな銀行建築を表現「新井ビル」
北浜の手前の新井ビルは、銀行建築をレストランに再生した建物だ。河合浩蔵は曾禰中條のような正統様式建築を好まず、もっと砕けたセセッション的な作風だ。1階を石貼りとし最上部にメダリオンを飾るのは新古典主義的な落ち着いた構成だが、そこに使われる装飾はほとんど簡略化されて軽やかさを演出している。
円満字 洋介
建築家