「年間の医療費が10万円以上かかると控除が受けられる」……よく知られていることでしょう。しかし、セカンドライフも現役時代と同じ認識でいると知らないうちに損をしていることも。老後に現役時代と比較してコスト増となりやすい「医療費」において、あとで後悔しないためには、正しい知識が必要です。本記事ではYさんの事例とともに高齢者の医療費負担について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
無知でした…〈年金210万円〉の70歳元サラリーマン、〈医療費年9万円〉で大きな勘違い「今までなんてもったいないことを」【FPの助言】
ポイントは「年間所得200万円」
FPからの説明は以下のとおりでした。
年間の所得が200万円「以上」か「未満」かによって異なり、年間所得が200万円以上の場合は支払った医療費の総額が10万円以上となった場合、10万円よりかかった分が控除対象。ただし、年間所得が200万円未満の場合は、所得金額の5%以上となった場合、医療費が控除の対象となります。
具体的な医療費控除(上限は200万円)の計算式はこちらです。
1.年間所得200万円以上
医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)−10万円
2.年間所得200万円未満
医療費控除額=(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金などで補てんされる金額)−(所得金額×5%)
注:保険金などで補てんされる金額とは、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません(国税局:医療費控除の対象となる金額より)。
Yさんの医療費は「所得金額×5%」を超えていれば、その超過分の金額を控除できます。Yさんの年金額は210万円ですね。「(210万円-110万円)×5%=5万円」を超える医療費は控除の対象になるということになります。年間の医療費が9万円であっても医療費控除を受けられる可能性があります。
今まで年間9万円負担していた医療費は、確定申告することで医療費控除と住民税の軽減が受けられる可能性があるのです。
医療費控除は世帯全員分の医療費が対象
実はYさんは妻に先立たれたあと、おひとりさまで生活していました。ですがYさんには別居している子どもが1人います。優しい子でなにかと援助をしてくれますが、孫の教育費がかかるのに申し訳ない。自分はなにもしてあげられないのに。そんな風に思っていました。
医療費控除の対象となる医療費は、納税する本人だけでなく、同居別居問わず、生計を同じくしている配偶者や親族が支払った医療費も対象となり、世帯全員分を合計できます。
世帯主でなくても利用できるため、世帯の中でもっとも所得税率が高い人が、全員分の医療費を合計して医療費控除を申告すれば多くの還付金を受け取ることができます。
Yさんが子どもと、生計を同じくするには、必ずしも同居していることが条件ではなく、子どもから生活費や医療費の援助を受けているなどの場合によることをいいます。お互い世帯でかかった医療費は日ごろからまとめておくといいでしょう。
Yさんの医療費が子どもの税負担を軽減できる可能性もあるのです。もっと早く知っていれば、Yさんの最も気がかりである子どもの役に立てていたため、非常にもったいないですね。