世の中の理や人生の機微を簡潔に掬い取ることわざや言い回しの数々。現代の、短文だけで事足りるスマホ社会では登場することがめっきり減ってしまい、気づかぬうちに世代間で会話のずれが生じてくることも……。今回は、山口謠司氏の著書『じつは伝わっていない日本語大図鑑』から、知ったかぶりでは会話にならない言い回しをご紹介します。
部長「あの案件、そろそろ目鼻はつきそうか?」若手社員「メハナ…ですか?」短文スマホ世代には通じない言い回し13選
今や離れた世代間に通用しなくなってきた、巧みな諺や言い回し
「海老で鯛を釣る(※1)」「鬼の居ぬ間に洗濯(※2)」「絵に描いた餅(※3)」……。世の中の理や人生の機微を簡潔に掬い取っている諺の数々も、短文だけで事足りるスマホ社会では登場することがめっきり減っています。
そうした諺の類いは、ゆったりと交わされる会話でこそ挟まれるものだとしたら、今や人と向かい合って話すのは時間の無駄(タイパが悪い?)とすら考える若者たちに、諺の知識が蓄積されるはずもありません。もちろん、多くの諺を知っている年配者との会話のズレも広がるばかり。
諺以外にも、日本語には、じつに巧みな喩えで本来の意味を込めた言い回しがたくさんあり、昔は誰もが「ああ、それそれ」と比喩を共通に理解していました。けれども、それはもう、離れた世代間では通用しない――と思えます。
※1 海老で鯛を釣る…わずかな労力で利益をたくさん得る。少しの物や元手をもとに、すごく得すること。
※2 鬼の居ぬ間に洗濯…いつも気がねや気配りをしなければならない人が不在の間に、のんびりと心と体をくつろげること。
※3 絵に描いた餅…何の役にも立たないもの。 実現の可能性がないこと。
知ったかぶりでは、会話にならない…!
●お茶を濁(にご)す…いいかげんなことを言ったりして、その場を何とかしのぐ。適当にその場をごまかす。
●木で鼻をくくる…冷たい無愛想な態度で応対する。そっけなくあしらう。
●肩で風を切る…どうだと言わんばかりの威張った感じで歩いているさま。威勢よく得意げな態度。
●身を粉(こ)にする…大変な労苦をいとわず力を尽くす。
●角(かど)が立つ…事が荒立ってしまい、他人と円滑にいかなくなる意。
●泡を食う…思いがけない出来事にびっくりして、あわてる。
●目くじらを立てる…「目くじら」は目尻のこと。キッとつり上げて、ささいな事柄にむきになって怒る。いちいち他人の欠点を突く。
●目が肥えている…骨董や美術品など優れた本物をたくさん見てきて、真贋が見極められたり、鑑賞力が高い
●耳が肥えている…音楽や話芸などを数多くきいてきて、それらを味わったり、優劣を判別する能力が備わっている意
●舌が回る…とちることなく滑らかによくしゃべる。話し方が上手。
●手を回す…事がスムーズに運ぶよう、必要な手配を隠れてこっそりする。
山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授