18歳以下で出現する「知的障害」。知的機能が平均より下であり、3つの領域における適応行動の不全による特徴がみられるものを示します。3つの領域は「概念的領域」「社会的領域」「実用的領域」。この、知的障害と診断を受けた人の中には「軽度」と分類される人がいます。軽度知的障害と呼ばれるボーダーラインはどこなのか、健常者とのラインはどこにあるのか、みていきます。

軽度知的障害はどのように診断される?

軽度知的障害の診断方法は、臨床診断とその他の検査によって総合的に診断されます。臨床診断では主に、知能検査を行い、生育歴と行動観察について聞き取りを実施します。

 

■生育歴

生まれてから今までの成長の様子について、保護者から聞いていきます。言葉の発達状況、幼稚園または保育園、学校での様子や1歳半健診、3歳児健診での様子を聞き取りしていきます。発達面における知的障害の疑いがあるか、発達の特性はあるのかなどを見立てていきます。

 

■行動観察

遊びができる空間で子どもに遊んでもらいます。その様子を注意深く観察しつつ、保護者に話を聞いていきます。

 

■知能検査

知能検査は主に2つのどちらかで検査します。

 

「田中ビネー知能検査」

2歳から成人まで受けられる知能検査就学前の5〜6歳頃に焦点をあてて、特別な配慮が必要かどうかを判断します。その場合は「就学児版田中ビネー知能検査(V)ファイブ」という検査を実施します。子どもが、興味を持てるような道具で検査を行います。日常生活において必要な知能、学習において必要な知能の2つを検査してみていきます。

 

 

「ウェクスラー式知能検査」

この知能検査は、年齢ごとに3つのテストに分かれます。年齢に応じた発達内容で、知能検査をしていきます。

・「WPPSI」は3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の主に幼児期にあたる年齢が受けます。

・「WISC」は5歳から16歳11ヶ月の主に学生期にあたる年齢が受けられます。

・「WAIS」は16歳以降の成人の人が受けられます。

 

全体のIQを求めるだけでなく、個人の強みや苦手さを下位検査を用いて算出し、総合的に判断を行います。しかし、2歳未満の子どもまたは医師から必要と認められた場合は知能検査に代わる記述式の発達検査や、新版K式発達検査などの実施型の発達検査を受けてもらうこともあります。

 

「新版K式発達検査」

年齢において一般的と考えられる行動や反応が、検査を受ける人の行動や反応と合致するかどうかを評価する検査となります。検査は「姿勢・運動」「認知・適応」「言語・社会」の3領域について検査します。検査結果は、この3領域の発達指数と発達年齢が分かります。検査を実施する人は、検査結果のみを伝えるだけでなく、言語反応や感情、動作、情緒などの反応も記録した上で、総合的な判断を行います。知能検査だけではなく、日常生活における適応能力の検査も行います。

 

適応能力の検査では、Vineland-Ⅱ(ヴァインランド)、ASA旭出式社会適応スキル、S-M社会生活能力検査などが使用されます。

 

「Vineland-II」

0歳から92歳と幅広い年齢の方が検査ができます。同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、精神疾患のある人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査となります。検査を受ける人のどんな特性があるのかを評価します。教育や福祉分野の個別支援計画の立案の際は、Vinelandの評価に基づいて行われることがあります。

 

他にも以下の年齢によって、これらの検査を受けてもらうことがあります。

 

・ASA旭出式社会適応スキル(幼児〜高)

・S-M社会生活能力検査(乳幼児〜中学生)

健常者と軽度知的障害者はどこが違う?

軽度知的障害者は、知的機能と適応能力にやや遅れがみられます。しかし、身辺自立はしているため健常者との差異はあまりありません。読字、書字、算数、時間などの概念の認識や会話、コミュニケーションなどの社会面において困難を抱えることもあります。ただ、自分で学び取る力もあるため経験を積むことで得られる知識や学びは多くなっていきます。

 

また、軽度知的障害者は言葉を話すことができるため健常者と同じようなコミュニケーションをとることは可能です。しかし、抽象的な意味を理解したり説明することが難しいこと、文字の読み書きや計算などの学習で全体的な遅れがみられることはあります。軽度知的障害者は、物事を概念的にとらえて学習するよりも、直接見たり聞いたり、経験的に学ぶことが多いです。

 

軽度知的障害と言われても、知識や学習を直接的・経験的に学ぶことで、学びの幅は広がります。苦手なところをまわりも知ることで、お互いに過ごしやすい環境を作ることができます。